新法相の「人権感覚」

 1月13日、野田内閣の改造があった。世間では「素人」発言の一川防衛相の後任に、またまた素人の田中直紀氏が就任したことが話題になっているが、内閣の顔ぶれが多少代わる改造にはあまり関心はなかった。ただ、誰が法務大臣に就任するのかには関心があった。いわゆる「人権救済」法案なるものが通常国会への提出予定法案とされており、この法案に対する野田内閣の姿勢を知るうえで、誰をその所管大臣に任命するのかは一つの手がかりともなるからである。

 結果は予想通りというか、菅グループの弁護士出身議員である小川敏夫という参議院議員が法相に就任した。この新法相は、外国人地方参政権推進派として知られ、人権救済機関設置の推進派とも言われている。むろん、任命に当たって野田首相から「新たな人権救済機関の設置」も重要課題の一つとして取り組むようにとの指示をうけたというのだから、この法案が政治日程に上る可能性はますます高くなったと言えよう。

 

 ところで、この小川氏の名前を聞いて、思い出したことがある。安倍内閣当時、米国議会での慰安婦決議が問題になったことがあったが、その際、安倍首相との間で質疑を交わしたのが小川氏だった(平成19年3月5日・参議院予算委員会)。

 改めて議事録を確認すると、こんなやり取りをしている。小川氏が米国議会で元慰安婦という女性が行った「証言」を持ち出し、強制連行があったのだ、それを首相は否定するのかと質問したのだが、安倍首相は「裏付けのある証言はない」、「事実誤認があるというのが私どもの立場だ」、「(米国議会で)決議があっても謝罪することはない」と答弁した。こうした答弁を受けて小川氏はさらにこんな趣旨の発言をしている。

 「(事実誤認だと言って)こうした人権侵害についてきちんとした謝罪なり対応をしない人権感覚、あるいは過去に日本が起こした戦争についての真摯な反省が、やはりまだまだ足らないんではないか」と。

 安倍首相は「私は全くそうは思わない。戦後60年、日本は自由と民主主義、基本的な人権を守って歩んできた。小川委員は殊更そういう日本の歩みをおとしめようとしているのではないか」と首相答弁としてはかなり踏み込んだ反論をしている。

 当時は、民主党にはこんなバカな議員がいるのだなという印象しかなかったが、改めてその応酬を読んでみると、ともかく慰安婦への謝罪、戦争の反省が重要だ、という小川氏の人権感覚とやらがうかがえる場面でもあったことが分かる。こんな歪んだ人権感覚と歴史認識を持つ人物が法相に就任し、しかも「人権救済」機関の設置に取り組むというのだから、なんとも危ない話ではある。

 

 それと同時に、小川氏の質疑からは人権救済機関なるものの危険性も連想させられる。

 「強制連行された」という「申し立て」だけで人権侵害だと決め付け、一方、その「申し立て」には裏付けがない、事実誤認があるという安倍首相の答弁に対しては「人権感覚が…まだまだ足りない」という。これでは人権侵害を受けたという「申し立て」があれば、事実認定などは二の次だと言わんばかりである。また、そうした「申し立て」に対しては先ず「きちんとした謝罪」をするのが正しい人権感覚だとも言っている。

 民主党がつくろうとしている「人権救済機関」は、第四権力と言えるほど強大な権限を持つ。その機関がこんな「人権感覚」のもとでつくられたら、どうなるのだろうか。例えば、元慰安婦という人たちがやってきて、日本国家による人権侵害があったと「申し立て」を行ったら、民主党政権から任命された「人権委員会」はどう判定するのだろうか。何とも恐ろしい話ではないか。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年2月号〉