別姓推進派の「詭弁」に騙されるな

別姓推進派の「詭弁」に騙されるな

夫婦別姓・家裁許可制は、やはり偽装された「選択制」だ


 

 さる七月十八日、突然、夫婦別姓について衆議院の法務委員会が開かれ、参考人の意見陳述が行われることになった。具体的な法案が付託されていないのにこの種の委員会が開かれるのも異例だが、意見陳述した四名の参考人(大森政輔氏、森隆夫氏、榊原富士子氏、民部佳代氏)の内、三名が推進派であったことも極めて異例であった。

 しかも、それに輪をかけて異例だったのは、二名の自民党議員(森岡正宏氏と野田聖子氏)が賛成論と反対論の正反対の立場から質議に立ったことである。別姓問題をめぐる自民党の内部対立が、国会の場にそのまま持ち込まれた恰好だ。

 一体なぜ、こんな異例づくめの委員会が開かれることになったのか。また、そこでどんな議論が交わされたのか。その一端を紹介してみたい。

 

◆自民党推進派の「画策」

 まず、今回の法務委員会が開かれた背景から述べたい。結論から言えば、別姓問題について党内の意見集約が遅々として進まない状況に業を煮やした自民党内の推進派が画策したものと推測される。つまり、野党の力を借りて、党内の膠着状況の打開を図ろうとしたわけだ。

 それは、この一年間の別姓問題の経緯を見てみるとよく分かる。

 昨年六月、自民党法務部会での別姓反対派による抵抗が奏功し、法務省はとりあえず別姓法案の国会提出を断念、それに代わって自民党の推進派は、「例外的別姓」の議員立法案という新たな戦術に打って出た。

 「例外的別姓」法案とは、同姓原則を前提に、「職業生活上の事情や祖先の祭祀の主宰その他の理由」により別姓を必要とする者に限り、「家庭裁判所の許可」を得て別姓を認めようというもの。「家裁許可制」とも称される。一見、反対派に対する「配慮」を示した法案のようにも見えるが、実はそうではない。解釈次第で誰もが別姓を選択できることになるという代物で、その正体は偽装「選択制」と言っても過言ではない。

 当然、この議員立法案に対して反対派は抵抗し、結局自民党内での法案提出に向けた動きは中断した。

 ところが本年六月、にわかに推進派の動きが活発化する。彼らは福田官房長官に対し、議員立法案の通常国会提出を働きかけ、また党執行部にも同様の働きかけを行った。その上で六月十七日、約一年ぶりに開かれた党法務部会で、議員立法案を「政調会長預かりにする」との提案を行った。しかし結局、この提案も挫折してしまう。

 一方、野党三党は選択的別姓法案を衆参両院に共同提案しており、法務委員会での審議を待ち望んでいた。そこで、自民党の推進派は、この野党の力を借りて別姓論議を進めるという奇策に走ったものと思われる。もちろん、これが野党を利するだけの「暴走」に過ぎないことは余りにも明らかだと言えよう。

 

◆別姓推進派は「まじめな国民」?

 こうした背景や参考人の人選などからも分かるように、法務委員会は基本的に推進派ペースで運ばれた。こうした推進派に加担した委員会の開催を認めた山本有二法務委員長や自民党執行部の責任は極めて重い。

 とはいえ、今回の委員会は全く無意味だったわけではない。参考人の発言や質疑などを通し、別姓推進派の思惑が露呈することにもなったからである。例えば推進派の野田聖子議員は、「今日ここで一番明らかにしたいことは、夫婦別姓制度を望む国民はあくまでも法律婚をしたいと望んでいることです」と述べ、次のように言い立てた。

    「反社会的な人間であれば、国や法律の規範に基づく結婚など望むべくもなく、自分たちの好き勝手に共同生活するのではないでしょうか。自分たちの家族のあり方を法律で認めてもらいたいなどと思うわけもなく、むしろ、国は家族のことに口出しするなくらいに思っているはずです。この点が夫婦別姓を望む人々の声と本質的に異なるのに、それが混同されている」
    「法に従い生きていこうというまじめな国民が、姓について例外的な救済を求めていることに対し、国は制度を用意すべきではないでしょうか」

 この野田議員の発言は別姓推進派の実態を隠蔽するものだ。なぜなら、別姓導入を強力に推進しきた多くが、結婚制度や戸籍制度、あるいは家族そのものの否定論者たちであることは周知の事実であるからだ。

 また、別姓推進派の中には自ら「ペーパー離婚」したり、事実婚であることの「不安」を言い立て、別姓導入への圧力となす不心得者もいる。こうした人々をも野田議員は、「法に従い生きていこうというまじめな国民」などと言うのだろうか。野田議員の発言は、結婚制度を重んずる保守派の心情に訴えるための詭弁と言わざるを得ない。

 実際、民部佳代参考人(埼玉県大井町町議)は、別姓が導入されない中で、婚姻届を出さない事実婚カップルが増えつつあることに言及し、「いわゆる内縁の夫婦や非嫡出の子」が増える前に、早期に民法改正を行うべしと訴えた。

 しかし、事実婚や同棲が増えているのは、結婚や家族に対する社会の価値観が壊れたからであり、別姓導入が遅れたからではない。逆に別姓を導入すれば、結婚や家族の制度はますます崩れ、事実婚や同棲は一層増えるに違いない。「内縁の夫婦や非嫡出の子」の増加を理由に別姓導入を迫るのは全く筋違いな恫喝と言わなければならない。

 

◆「家裁許可制」に隠された「本音」

 一方、今回の審議を通して、家裁許可制についての推進派の「本音」が露呈したことも見逃せない。

 すなわち、先にも触れた家裁許可制が定める要件(職業生活上の事情や祖先の祭祀)に該当しない希望者に対して、家裁許可制は対処できるのかという趣旨の共産党議員の質問に対し、二人の参考人が発言した。まずは、選択的別姓又は例外的別姓の導入を唱える元内閣法制局長官の大森政輔氏はこう発言した。

 「どうしても自分は、自分の人格が吸い取られるように思って、もうたまらぬ、それは、ほかの人よりももっと自分は特別の思いがあるんだというときには、その他の理由があるんだということで、家庭裁判所においても許可ができるような、そういう柔軟な、ふわっとした基準を書くことで妥協ができないのかな」と。

 また、早くから選択的別姓を推進してきたイデオローグの一人とも言うべき弁護士の榊原富士子氏は、次のように発言した。

 「法律というのは、あらゆる法律がすべてのことを書いてあるわけではない。その法律に書かれていることから類推して、思わぬ例が出てきたときに、これは当てはまるのか、当てはまらないのかを、その時々に裁判官が考えて、類推をしたり、拡大をしたり、あるいは否定をしたりしていくわけです。
そうしますと、多分、導入当初は明示された理由に拘束されながら解釈され、そして、時代が変わり、十年、二十年たちすると、またそれは変わっているのではないだろうかというように予想します」

 要は、「その他の理由」という規定や「時代の変化」などによって、いくらでも柔軟に解釈の幅を広げていけると言うのである。推進派の参考人によって、家裁許可制の本質が偽装「選択制」に過ぎないことが裏書きされたと言ってもよい。

 これらの参考人の発言に先立って、野田議員は、自分たちは反対派の不安を解消すべく腐心し、家裁許可制という「限定的な仕組み」を考案したと発言した。「家名の継承や職業生活上の必要性から姓を変えることが不利益をこうむる人たちに限り特別な措置を講ずるという内容です」と。だから、反対派は心配せずに賛成せよというわけだ。だが、「限定的な仕組み」とはなり得ないからこそ、選択的別姓の推進論者たちも家裁許可制を容認するのである。野田議員の主張を真に受ければ、取り返しのつかない結果になるだろう。

 ともあれ、今日、自民党の推進派議員たちが反対派の心情につけ込む「詭弁」を弄して、野党の力を借りてまで別姓法案を通そうと執念を燃やしている現実を知るべきだ。(日本政策研究センター研究員 小坂実)

〈『明日への選択』平成15年8月号〉