国境を越える独裁の害

 中国の大気汚染が話題になっている。今年に入って、各都市でPM2・5という微粒子状の物質による大気汚染が深刻となり、北京では米大使館が大使館屋上で観測しているPM2・5の濃度は、米大使館が「危険」とする濃度を上回った日が1月だけで15日を超え、一時は計測不能という日もあったという。しかも、その汚染物質が気流に乗って日本に流れこみ、わずかの間だが、日本の規制値を超えた場所も出てきている。

 問題は大気汚染に留まらない。3月になると黄砂も飛んでくる。海の汚染も深刻だ。中国海洋当局が調べただけで「(海洋への排出の)4分の3が基準に適合しておらず、河口の48カ所が重金属、DDT、石油炭化水素の汚染にさらされている」という。大変な汚染が東シナ海に広がっているのだ。同じ調査は「中国沿海海域は富栄養化が進み、有害な藻が大量発生している」とも書いている。毎年のように大量発生して漁業の障害となっている越前クラゲは、こうした汚染や富栄養化の産物である。

 日本の海岸への漂着ゴミも、出所不明が多いため国別の正確な統計はないらしいが、先島諸島では平成10年から10年間で中国で投棄された漂流ゴミが13.3倍に増えたという(防衛大学校・山口晴幸教授の調査)。昨年九月に東京都が行った尖閣諸島魚釣島での調査でも大量の漂着ゴミが見つかっている。中国は海洋監視船だけでなく、汚染もゴミもクラゲも越境させているのである。

 

 こうした大気汚染などの環境破壊によって最初に、そして最も被害を受けるのは中国人自身である。大気汚染は既にほぼ中国全域に広がっている。少し前の報道だが、中国ではWHO(世界保健機構)の推奨値を半分に緩めた基準でも合格した都市はわずか1%。半分を超える都市がWHO基準値の5倍を超える粉塵で汚染されているという。その結果、毎年36万人が死亡し、60万人が入院しているとの報道もある(中国紙・工人日報)。

 また、全国で四割の川が汚染され(中国監査部)、百を超える北京の河川で水源として使えるのは2~3%(「南方週末」紙)、全国118都市の64%で地下水が汚染され、正常なのは3%しかない(新華網)。そうした水質汚染の結果、ガンが多発している「ガン村」が全国で247カ所もあるのだというから恐ろしい(人民日報)。

 

 さすがに中国でも汚染防止が叫ばれているらしいが、見通しは暗い。大気汚染を例に取れば、その主な原因は、硫黄分を大量に含んだディーゼル燃料と石炭火力発電だと言われているが、規制が出来ないのだ。

 汚染源であるディーゼル燃料を作っているのは中国石油天然ガスと中国石油という巨大な国有企業。石炭発電を行っているのも大手はみな国有企業か地方政府の所有企業である。まさに政府の一部門ともいうべき存在であり、しかも中国共産党の利権の本丸だとも言われている(林保華氏は李鵬の家族が電力、曾慶紅と周永康が石油を握っていると述べている。小誌昨年7月号)。

 マスコミはこの問題を本気で取り上げられないし、住民が騒いでも無理な話である。当然、当局による規制はないも同然。PM2・5が大問題となっている今でも、石油会社はディーゼル燃料はすべて中国の環境基準を満たしているとの声明を出している(ロイター・2月3日)。

 

 権力構造の問題だけでなく、中国共産党には環境保全という思想自体が存在しないと言ってよい。毛沢東は「人間は自然科学を用いて、自然を理解、征服、改変し、自然からの自由を獲得しなければならない」と言い、社会改造、思想改造とともに自然改造を併せて「三つの社会的実践」と言っていたが、その考え方は今も否定されていない。

 環境外交の出番だなどとはしゃいでいる新聞が日本にはあるが、そんな共産党が今も厳然と独裁する国・中国で本気で環境保全が進むと考えるのはどうかしている。むしろ、共産党独裁は中国人から政治的自由を奪っているだけではなく、川や海、大気も奪っている。その弊害は中国に留まらず、日本にも押し寄せてきている――こう叫ぶべきである。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

 

〈『明日への選択』平成25年3月号〉