人間形成の出発点

「母子一体感」こそ子育ての原点③

人間形成の出発点

田下昌明著『子育てが危ない』 (抄録)


 

 田下 こうして生後六週からはじまりまして六カ月で一応の刷り込みが完成し、母子一体感ができていくわけですが、この母子一体感が一人の人間となっていく上での出発点になるのです。その意味で、母子一体感は子育ての出発点でもあり、人間形成の出発点でもあるのです。

 どういうことかと言いますと、人間が他の動物と違うところは、言葉を使うことと、時間の認識があるということ、すなわち抽象化・概念化ができることなのですが、この抽象化・概念化ができるようになるためにも母子一体感は欠かせないのです。

 例えば、人見知りするということも、お母さんの顔の横に違う人の顔が来た時に、例えばお父さんの顔が来たとしますと、今まで見ていた自分だと思っていた顔が自分ではないということに気付くところから起こる。つまり、我と彼の違いが分かってくるわけで、こうして抽象化・概念化が育っていくのです。

 これは生後六カ月くらいになってからの話ですが、その前にも抽象化・概念化をするトレーニングが二つ行われています。

 一つは、言うまでもないことですが、言葉を覚えていくということです。しかし、もう一つ見逃してはならない大事なことがあります。時間を覚えていくということです。これが、先ほどの六つの要素であげた「母の動きを赤ちゃんが追いかけようとする」という項目の意味なのです。

 例えば、自分とお母さんが毎日一緒に生活している茶の間があり、その茶の間から、こっちの出口にいったら隣の部屋、あっちに行ったら玄関という具合に、いろんな所へ行く出口があるとします。すると日常的に子どもはお母さんがあっちへ行ったりこっちへ行ったりするのを見ていまして、この出口から出て行った時はすぐ帰ってくる。向こうから出て行った時はなかなか帰って来ない。そういうことを記憶しているわけです。ですから、すぐに帰ってくる事が分かり切っている出口から出て行ったりする時は泣いたりしない。しかし、すぐ帰ってこない出口から出て行くと置いていかれたのではないかと思って泣きたくなる。つまり、お母さんが見えなくなってから次に見えるまでの間どのくらいの時間があるかということを予測しているわけです。こうして予測することが時間を覚えていく基本になるわけです。これがその後の知能の発育に非常に大きな影響を及ぼします。

 しかし、この時間の予測ということも、母子の一体感がまずあって、その一体感がお母さんが部屋から出ていくことによって破られ、またお母さんが戻ってくることによって修復するというところから生まれてくるわけです。つまり、母子の一体感がなければ、一体感が破れることもないし、また戻ってきてほしいという気持ちも発生しないのです。ですから、時間を予測するトレーニングにならないのです。

 ところが、乳児期に施設で育てられている子どもはどうなるのかというと、数人の保母さんから養育を受けますので誰が自分のお母さんかわからない。また、施設で育てられなくても、あるときはお父さんが育児をしたり、また時には保育所に預けて保母さんが世話をしたりするケースも、子どもからすると同じで、帰ってきて欲しいと願う相手がいないわけです。つまり、母子の一体感が発生しないので、母子の一体感が破られるということも起こらない。従って、次にお母さんが現れるのが、どれくらい後かという予測も子どもの中に生まれて来ない。つまり、抽象化・概念化が遅れ、それが知能の発達にも影響するわけです。 >>続きを読む