すべては「母子一体感」から始まる

「母子一体感」こそ子育ての原点①

すべては「母子一体感」から始まる

田下昌明著『子育てが危ない』 (抄録)


 

 学級崩壊、キレる子ども、青少年犯罪などが話題になるたびに、子育てや家庭での躾の問題が指摘されている。しかし、躾とは何なのか、子育てはなぜ大事なのかという肝心な点はほとんど論じられていない。そこで、長年、小児科医として活躍され、「母子の一体感」こそ子育ての原点だという育児論を提唱されている田下昌明先生に、親子関係の現状や小児科医から見た子育てのあり方、さらには健全な子育てを阻む現在の風潮について、お話いただいた。


 

すべては「母子一体感」から始まる

 ―― では、子育てのなかで何が一番基本となる大切な考え方なのでしょうか。

 田下 子育てで一番大事なのは何と言っても、「母子の一体感」です。私は、ここからすべてが始まると断言できます。逆に、ここで失敗すると取り返しがつかない。それほど大事なものです。

 母子関係の理論の大家でボウルビィという英国の医師がいますが、彼は「一人の女性による継続的養育」ということを重要視しているんです。どういうことかと言いますと、できれば三歳まで、特に生後六週から生後六カ月までの間は、生みの親でなくてもいいし、年齢も問わない。しかし、男性ではダメで、とにかく「一人の女性による継続的養育」でなければならない。そうでなければ「母子一体感」が発生しないというのです。私の経験から言っても、まさにそのとおりだと思います。

 この生後六週から生後六カ月までの期間というのは、子どもが産まれて育ってゆく段階で最も重要な時期で、動物行動学で言う「刷り込みimprinting」の時期に相当します。この時期に刷り込まれたものはもう消せない。刷り込み損なったものは直せない。そして刷り込まなかったものは後からは刷り込めないのです。

 むろん、人間と動物とでは違います。動物の場合は、エサさえ与えれば間違いなく犬は犬として、スズメはスズメとしてその動物らしい習性を発現してゆくのですが、人間の場合は意図的に「お前は人間なのだぞ」ということを赤ちゃんの心に刻みつけないといけない。いわば、この時期というのは、「お前は私の子なんだよ」「僕はお母さんの子なんだ」と、母と子がお互いに確認し合う時期なのです。

 それがないとどうなるかと言いますと、オオカミに育てられた少女アマラ、カマラのようになってしまう。インドのアマラとカマラは、生まれて六カ月も経たないうちにオオカミにさらわれ、九歳になってから人間の社会に「救出」され、人間として再教育されましたが、この刷り込みの時期にオオカミとしての習性が刷り込まれてしまったから、いくら人間の言葉や立ち居振る舞いを教えても結局はダメだった。

 つまり、赤ちゃんには単に食べ物を与えるだけではなく、人間になるための心の栄養も欠かせない。その心の栄養こそ母と子の一体感なのです。 >>続きを読む