外国人地方参政権問題・キーマン反対で流れは変わるか?

外国人地方参政権問題

キーマン反対で流れは変わるか?


 

 外国人地方参政権問題を巡って、最近、2人の人物の発言が注目を集めている。一人は憲法学者の長尾一紘中央大学教授。外国人参政権について、憲法学者の間では憲法15条が参政権を「国民固有の権利」としていることから憲法は外国人の参政権を禁じているという禁止説と、認めてもよいとする「許容説」とがあるが、そうしたなかで国政レベルでは外国人参政権は認められないが、地方自治体の選挙であれば、立法措置によって参政権を付与しても憲法上許容されるという「部分的許容説」を最初に唱えたのが長尾教授であった。

 この「部分的許容説」の影響を受けたのが平成7年2月の最高裁判決で、法的拘束力を持たない傍論部分に「法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」と、きわめて長尾説に近い主張が書き込まれた。民団など推進派が外国人地方参政権は憲法違反ではないと堂々と言い始めたのは、この傍論があったからと言える。

 こうした傍論を主導したとされるのが、もう1人の人物、当時最高裁判事だった園部逸夫氏である。その意味で長尾教授と園部元判事の2人は、いわば参政権付与論のキーマン的存在だったと言えるのだが、この2人が最近そろって外国人地方参政権法案への反対・批判を表明した。

 長尾教授は、参政権法案提出が現実味を帯びてきた昨年末、外国人参政権は違憲である。かつて唱えた「部分許容説」は誤りだったと認め、今年2月には「外国人の選挙権導入は憲法に違反する」という論文を発表した。

 園部元判事は今年2月、平成7年判決には在日韓国・朝鮮人を「なだめる意味があった。政治的配慮があった」と明言し、判決の傍論部分が法律を制定すれば地方選挙に限って参政権を付与しても違憲ではないとしたのは、対象が「(在日韓国・朝鮮人ら)非常に限られた永住者に限定する」という意味で、民主党政権が選挙権付与の対象として中国人など「一般永住者」まで含めていることは「ありえない」と批判した(産経新聞・2月19日)。

 かつて唱えた学説の誤りを自ら認めた長尾教授とは違い、園部元判事の方は、今になってあの傍論には「政治的配慮があった」などと弁解されても取り返しは付かないのだが、それでもこの2人が参政権法案に立て続けに反対を表明した意味は大きい。

 ところで、園部元判事は退官後に朝日新聞上で「在日の人たちの中には、戦争中に強制連行され、帰りたくても祖国に帰れない人が大勢いる。『帰化すればいい』という人もいるが、無理やり日本に連れてこられた人たちには厳しい言葉である」と述べ、朝鮮生まれの自らの体験に重ね合わせ、身につまされる思いがし、それが傍論に反映したと述べていた(平成11年6月24日)。しかし、そうした私情は誤解と言える。戦後日本に在留するいわゆる「在日」のほとんどは、「強制」されて日本に渡航してきたのではない。

 この3月、タイミングよく、外務省がかつて作成・公表していた「在日」=「強制連行」を否定する資料の全文が明らかになった。高市早苗議員が請求していた外務省の報道資料で、3月10日の外務委員会で岡田外相もその存在を認めた。

 昭和34年7月11日付のこの資料によれば、当時、外国人登録していた「在日朝鮮人(注・今で言う韓国・朝鮮人のこと)の総数は61万人」に対して、「関係省の当局において、外国人登録票について、いちいち渡来の事情を調査した」結果、終戦前からの在住者約38万千人のうち法的に強制力のあった「徴用」によって日本に渡り、戦後も在住していたのはわずかに245人。その人たちも自らの意志で日本に残留したことが確認されたという。こうした調査をもとに、当時日本に居住している韓国・朝鮮人は、みんな自由意思によって日本に留まった者か戦後日本で生まれた者ばかりだと結論づけている。

 何かを予感させる出来事が続く。とはいえ、参政権法案の行方は予断を許さないし、国会内での推進派の壁は厚い。もうひと粘り、反対を続けたい。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成22年4月号〉