日本を「移民国家」にしてもよいのか

日本を「移民国家」にしてもよいのか

五十年後には一千万減少する労働人口を「移民」によって補完しようという中川提言。しかし、話はそんなに簡単ではない。暴動、犯罪、テロの温床……ヨーロッパの「移民国家」の教訓をまず学ぶべきだ。


 

 「一〇〇〇万人移民」「移民国家」――大きくはなかったが、衝撃的な記事が六月二十日の各紙に掲載された。その前日、自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクトチーム」(木村義雄座長)が日本の総人口の約一割に当たる千万人の移民受け入れを目指す政策提言をまとめたというのである。

 提言内容をごくごく簡単に言うと、五十年後の日本の人口は推計によると九千万人をきるところまで減少する。その危機を救うには海外からの移民以外にないと断じ、日本は人口の一〇%を移民が占める「移民国家」「多民族共生国家」とならねばならず、そのために移民基本法を法制化し、移民庁を創設せよ、というものである。

 自民党がいつの間にそんなことを議論してきたのかと不思議にも思ったが、何のことはない、このプロジェクトは提言のわずか前に出来たもので、内容は「移民立国」を持論とする中川秀直前幹事長が会長を務める「外国人材交流推進議員連盟」(発足は昨年末)が六月十二日にまとめたもの。中川氏は、「外国人が暮らしやすい社会は日本人にも暮らしやすい社会だ。多文化共生に向けたメッセージを発し、国民運動を進めていく必要がある」と、移民基本法などの法制化に意欲を見せているとも報じられている。その意味で、この提言は中川提言と言うべきものである。

 確かに、日本は急激な人口減少に直面している。現在、日本の人口は約一億三千万人だが、五十年後には九千万、百年後には現在の三分の一の四千万になるという。また、生産に関わる労働人口も五十年後で約一千万減少するとされ、そうなれば生産や消費も大きく落ち込み、経済規模も縮小する。

 こうした人口減少社会の到来については、経団連など経済団体でも論議されており、人手不足分野への外国人労働者の受け入れ拡大などが提案されている。しかし、この中川提言は単なる労働者の受け入れではなく、労働人口不足を外国からの「移民」で補い、さらに進んで「移民国家」としようというのだから、まさに異色のものと言える。

 「移民」をどう定義するかは難しいが、ごく単純に言えば、定住(さらには帰化)を前提とした外国人の移住ということになる。中川氏の議連は、移民に対しては永住許可の要件を大きく緩和すること(例えば、必要な在留年数を十年から七年に、素行に問題がないなどの条件の撤廃など)も併せて提案している。中川氏のいう「移民」は、出稼ぎ型外国人労働者などではなく、文字通りの永住移民を想定していると言えよう。

 しかも、「一〇〇〇万」という規模は、五十年間にわたってということではあるのだが、今日の日本が永住を許可している一般の外国人が四十四万人(十九年末、特別永住者を除く)だから、ほぼ現在の一般永住者数に相当する移民を五十年間にわたって毎年導入することを意味する。まさにこの提言は「移民国家」をめざしたものと言える。

 これに対して、一体、中川秀直氏は何を考えているのかと反発が拡がっている。移民問題については、ヨーロッパで社会的コストなど様々な問題が既に指摘されている。そればかりか、そもそも日本が「移民国家」になれば、そのときの国家を日本と呼べるのかという根本的問題もある。一方、「移民国家」とまではいかないが、既に長期に滞在する外国人は二百万人を超え、労働力移入については既成事実がかなり積み重ねられてもいる。

 そこで、ヨーロッパの先行事例を紹介し、議論の方向性を提示してみたい。

【本論文の主な内容】
・独・仏も「移民国家」
・最初は出稼ぎ労働者
・避けられない移民化
・社会的コストはどうするのか?
・犯罪、暴動、テロ これは社会的リスクだ

〈『明日への選択』平成20年7月号〉