自虐史観の被害者

 今回の中国の「反日暴動」の映像をみて、ほとんどの日本人は中国がいかに異常な国かを改めて実感した。日系デパートからの商品の略奪、放火された日本資本の工場の映像は痛ましいと言う他ない。そうしたなか、「日本の化粧品はもう買わない」「日本車は買わない」などという中国人のインタビュー映像も流された。中国商務省次官はそうした日本商品ボイコットを公然と正当化し、今後も日本ボイコットが続くだろうと予想されている。

 しかし、中国の排外運動は今にはじまったことではなく、中国近代史は排外運動や外国商品ボイコットの歴史でもある。満州事変前にも徹底した不買運動「日貨排斥」が行われた。その1年後に出された国際連盟の「リットン調査団報告書」(第7章)はこう指摘している(引用は外務省訳をもとに漢字を一部平仮名に改めるなどしている)。

 ボイコット運動は「数世紀にわたって……支那の商人、銀行家の団体および同業組合において」「慣用」されてきたものであり、20世紀に「国民的と称せらるべきボイコットが判然と十回も行われたり」。

 こうしたボイコットは「群集心理なかりせば、かくのごとき広汎なる経済的報復を生起せざりしなるべし。この心理の創生に寄与せる要素は不正の確信(不正と考えることが正しくとも、あるいは誤れるとも)、外国人に比し支那の文化が優越なりとする相伝的信条……なり」

 ボイコットはもともと中国社会での伝統的な報復手段であり、全国的なボイコットだけでも20世紀になって10回も起こっている。その原因は群集心理、正誤は別とした「確信」、対外優越感情などだと報告書は言うのである。今回の暴動の背景となった、尖閣問題への妄信とも言える誤解、中国の国力が日本より勝っているという対日優越感などが指摘されているが、今も昔も中国人は変わっていないと言えよう。

 

 リットン報告書はこんな興味深い事実も指摘している。「……ボイコットは強き国民的感情に胚胎し、これにより支持せらるるといえども、これを開始または終息せしめ得る団体により支配せられ、……脅迫に等しき方法により強行せらるるものなりと結論す。……(その)主たる支配的権力は国民党にあり」と。満州事変前の日本商品ボイコット運動は、国民党によって支配され、強要されたものだというのである。今回も満州事変勃発の9月18日の翌日から暴動がぴたっとなくなったことを考えれば、まさに中国共産党によって「支配され、強要された」ものだったのだろう。

 また、「現在の対日ボイコットにおいては民衆に対し日貨の不買が愛国的義務なるを印象」づけるために「支那新聞紙の紙面はこの種の宣伝に充たされ、また市内の建築物の壁はポスターをもって蔽われ……」とも指摘している。新聞やポスターによる宣伝を今日のテレビなどによる扇動に置き換えれば、今日の反日運動にそのまま当てはまるではないか。

 

 「リットン調査団報告書」といえば、戦後の日本では満州事変を批判した報告書としか受け止められていないが、報告書は事変前の中国側状況についても実証的に分析し、なかでも中国側の「排外運動」、とりわけ「日貨排斥」を満州事変勃発の重要な原因として取り上げている。

 しかし、満州事変は謀略の柳条湖事件に始まる、いわゆる「中国侵略」の出発点だったとしか教えない日本の教科書が、報告書のそんな内容に触れることはない。国際連盟の正規の報告書が、中国側にも責任があったなどと書いていることは、一方的に日本が悪かったとする自虐史観にとっては「不都合な真実」だからである。

 放火された部品工場の社長は「中国でこんなことが起こるとは想像もしていなかった」と嘆いていたが、彼は自虐史観の犠牲者とも言えるのではあるまいか。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成24年10月号〉