食料からみた被災地域の重要性

食料からみた被災地域の重要性

われわれはどれだけ被災地域の農業・漁業にお世話になってきたか


 

 東北地方太平洋沖地震では、日本の漁業・農業の主要地域の多くが壊滅、もしくは壊滅的被害を受けた。

 地震発生当日、テレビを通じて、漁船や巨大な船舶までが流され、漁港や岸壁が滅茶苦茶に破壊される光景に息を呑んだ。海岸沿いの町が丸ごと流され、田畑が大津波に呑み込まれて行く光景はもはや見ていられなかった。

 亡くなられた方々の御冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、被災者の方々、農林水産業関係者に心よりお見舞い申し上げたい。

 一方、福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質(放射能)が漏れ、東北と関東の農業県で、野菜や原乳の「出荷制限」あるいは「摂取制限」がかけられている。しかも風評被害もあいまって、これらの地域の生産者に相当なダメージを与えている。

 いまさら言うまでもないが、東北や関東は、漁業、農業、畜産業の大変盛んな地域で、日本有数の「食料生産基地」である。

 特に食料自給率が一%しかない東京や二%しかない神奈川のような大都市の住民は、自力で食料をまかなうことがほぼ完全にできない。それゆえこれら地域の農畜産物・水産物の供給がなくなったり、減ったりすれば、何らかの影響を受けざるを得ない。もちろん他の地域や外国からの調達もあるから食料がなくなるという事態は想定しにくいけれども、一定の割合の食料が不足するため、十分な量を確保することは難しくなるし、価格にも影響が出てくる。

 見方を変えれば、そうした影響が出るほど、われわれは普段これらの地域のお世話になっているということだ。そのことを「食料」の観点からあらためて確認してみたい。

 

◇全国屈指の漁業圏が軒並み壊滅

 『漁港漁場漁村ポケットブック2010』によると、わが国には二千九百十四の漁港がある。とくに太平洋側には大きな漁港が多いというだけでなく、「特定第三種漁港」といって、日本の水産業を振興させる上で特に重要な漁港が十三港指定されている。実は今回の地震・津波でそのうち五港が壊滅的な被害を受けた。八戸(青森県)、塩釜・気仙沼・石巻(宮城県)、銚子(千葉県)がそれである。

 産地別水揚量をみても、銚子(一位)、気仙沼(三位)、石巻(四位)、八戸(六位)、女川(九位)、大船渡(十三位)、宮古(十七位)と被災地がズラリと並ぶ。

 農林水産省の各種統計に基づいて計算してみると、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の六県の漁業・養殖業生産量は全国の二四%、陸揚金額も全国の二二%を占める。

 魚種別にみると、被害の大きかった青森、岩手、宮城、福島の四県だけで、いか類の三六・七%、さんまの三二・六%、ほたての四七・六%、かき類の三一%、昆布類の三八%、わかめ類の七六%を生産している。

 では、これら全国屈指の漁業圏がどれほどの被害を蒙ったのか。

 農林水産省の発表によると、三月二十三日現在、北海道、青森、宮城、岩手、福島、茨城、千葉の七県で、被災した漁港は百十八港、漁船は二千三百三十三隻にのぼる。

 とくに岩手、宮城、福島の三県については、漁港(合計二百六十三港)も漁船も養殖施設も、ほぼ壊滅的な被害を受けた。岩手、宮城は詳細をまだ把握できない状況で、福島は全十港、実働漁船の八割にものぼる八百五十五隻が被災。それ以外の地域でも、北海道が二十港・七百十四隻、青森が十六港・四百十七隻、茨城が十四港・九十四隻、千葉が十港・二百五十三隻が被災した。

 水産物は国民の貴重なたんぱく源であるが、輸入を増やしたりしない限り、供給量に大きな穴が空くことになる恐れがある。

 

◇米・野菜・畜産—全国一の生産地がズラリ

 農業はどうか。

 まず東北は全国一の「米どころ」であると同時に、畜産の盛んな地域である。

 東北の米収穫量は全国の二七・四%を占め、その六〇%以上を青森、岩手、宮城、福島の四県で占めている。

 また四県の乳牛生産者は三千二百六十七戸で全国の一三・四%、肉牛が二万六十戸で二五%、豚が七百五十四戸で一〇・四%を占めている。

 一方、関東の農業県は、全国有数の野菜の生産地であり、酪農等も盛んである。

 例えば、原発事故の影響で「出荷制限」のかけられた茨城は、レンコン、ハクサイ、ピーマン、チンゲンサイ、レタス、メロン、卵の生産量で全国一位。ゴボウ、サツマイモ、落花生、ソバ、日本梨の生産量で二位。ミツバ、豚肉の生産量で三位となっている。

 同じく群馬は、コンニャクイモ、キュウリで一位。キャベツ、フキ、ウメで二位。ホウレンソウで三位。栃木は、カンピョウ、イチゴで一位。生乳とニラで二位だ。

 また「検査強化」を要請された千葉は、ホウレンソウ、ネギ、カブ、ミツバ、サトイモ、エダマメ、サヤインゲン、日本梨の生産量で一位。ニンジン、ダイコン、ソラマメ、スイカ、ビワで二位。卵、生乳で三位。同じく埼玉も、コマツナで一位。ホウレンソウ、ネギ、ブロッコリー、カブで二位。キュウリ、サトイモで三位という具合である。

 なお、被害については、農業の最重要基盤である農地の被害が深刻で、三月二十三日現在の農水省発表によると、津波で浸水した田畑は、岩手、宮城、福島の三県で約二万ヘクタールに達する。これは阪神・淡路大震災での田畑の被害面積の百倍の規模だ。

 むろん、他地域でも被害が出ており、十県で五百九十九カ所の農地が損壊。ダムや水路など農業用施設等も、十六県で五千九百九十一カ所の損壊が判明している。

 農作物等の被害については、農作物の冠水、流失、家畜の死亡などの被害が東北、関東を中心に十五県で被害が出ているが、詳細は調査中。

 ちなみに、あまり注目されていないが、林業にも影響が出ており、山火事が四市町、林地荒廃が百五十七カ所、治山施設が三十九カ所、林道被害が三百五十八カ所、木材加工・流通施設等の被害が二百五十九カ所となっている。

 

◇地方と都市が支え合う国づくりへ転換を

 このように、日本を支える「食料基地」が軒並み打撃を受けたことが分かるが、問題はそれだけではない。

 例えば、農業は就業人口の六二%、漁業は三〇%が六五歳以上の高齢者。十年後にはリタイアを余儀なくされるため、後継者の育成が急務となっている。しかし、ただでさえ「食えない産業」である上に、今度の震災で、海・港湾・漁船等、農地・農業用施設等というインフラが壊滅的被害を受け、果たして農業・漁業をやろうという人が出てくるのか、大変憂慮される。

 あるいは放射能の影響も懸念されている。農業はその活性化のために輸出を期待する声が強いが、米国、台湾、中国はじめ諸外国が日本の農産物の輸入をストップし始めた。水産物に関しては、福島沖は流れが速く、海水で相当希釈され、生物濃縮の影響も少ないと指摘されているが、風評被害は出てくるだろう。

 これらの問題を乗り越えて行くために、叡智を結集する必要がある。戦後の高度経済成長以降、わが国はこれまで経済合理性・効率性を最優先し、東京一極集中でひたすら突き進んできた。だが、今回の震災で明らかになったのは、食料・人材・エネルギーなどを供給する地方なくして都市は成り立たないということである。これを機に、これまでの被災地域からの食料供給に深く感謝するとともに、従来のあり方を反省し、地方と都市がともに支え合う国づくりへ転換することが必要ではないか。

〈『明日への選択』平成23年4月号〉