追悼 寬仁親王殿下

追悼 寬仁親王殿下

寬仁親王殿下の薨去から1年。謹んで追悼の意を表する次第でございます。以下は、昨年、殿下の薨去に際し、『明日への選択』に掲載した一文でございます。あらためて生前の殿下の御人柄と御業績をお偲び申し上げます。


 

 去る六月六日、寬仁親王殿下が薨去された。御歳六十六歳、皇位継承順位第六位であられた。

 一般に「ヒゲの殿下」として国民に親しまれた寬仁親王殿下は、昭和二十一年、三笠宮崇仁親王殿下の第一男子としてお生まれになった。

 学習院大学ご卒業後、英国オックスフォード大学にご留学。帰国後、札幌五輪や沖縄国際海洋博覧会の事務局に勤務された。殿下はご自身を「私は山とスキーの専門家である」(『皇族のひとりごと』)と仰っているが、スポーツ振興のみならず、青少年育成、障害者福祉、国際親善など幅広い分野で活動された。

 例えば、福祉分野では身障者にスキーを教えられ、人間は鍛えれば何でもできる、色眼鏡で見るのはおかしいということを実地に示された。

 このように多くの国民が殿下の激励に勇気を与えられたが、忘れられないのは平成十七年、「皇室典範に関する有識者会議」が「女系天皇容認」の方向で検討を進めていた際、これに敢然として異を唱えられ、男系皇統を維持しなければならないことをお示し下さったことである。殿下はご自身が会長を務められる福祉団体「柏朋会」の会報に、こう書かれた。

「世界に類を見ない我が国固有の歴史と伝統を平成の御世でいとも簡単に変更して良いのかどうか」

「天子様の皇統が貴重な理由は、神話の時代の初代・神武天皇から連綿として一度の例外も無く、『男系』で今上陛下迄続いて来ているという厳然たる事実です」

 

 

 「ヒゲ」「DJ」「皇室離脱宣言」……マスコミは殿下が皇族としては「型破り」だったというイメージばかり伝えたが、殿下ほど「正統」「本物」「原点」を大事にされた方はなかったという。

 皇室祭祀を大切になさり、歴代天皇の式年に際しては宮中・皇霊殿の祭典はもとより山陵の祭典にもたびたび参列された。靖國神社にも、昭和四十二年春から昨年春まで合計三十九回参拝されている。

 あるいは、日英社交界の古き良き伝統をお若い頃に体得された殿下は、ここ十年余り、防衛大学校を卒業したばかりの海上自衛隊幹部候補生に、テーブルマナーを教えておられた(『今ベールを脱ぐジェントルマンの極意』)。

「彼らのうちの一人は間違いなく将来の幕僚長になるわけですし、国賓や公賓と席をともにすることもあるでしょう。いずれにしても全員がこれからの日本を背負って立つわけで、外国でみっともない態度をしてもらっては困ります。そこで、服装や立居振舞い、食事の作法、会話、レディーに対する接し方まで徹底的に教え込みます」

 自衛隊に対するご期待は強く、震災後は航空自衛隊松島基地をご訪問になった(『天皇皇后両陛下 被災地の人々との心の対話』)。

「寬仁さまは、天皇陛下の3月16日のビデオ・メッセージに触れ、陛下がいのいちばんに自衛隊の名前を挙げて、救援活動にあたる人々の労をねぎらわれたことは、陛下がいかに皆様の活躍ぶりに期待され、心配されているかということが、おことばの中に込められていると思う、と語りかけ、『日本国のために、皆様方が今以上、奮励努力されることを心から期待をしています』と励まされた」

 石巻市では、陸上自衛隊第六師団の活動をご視察になり、副師団長以下四百八十二名を前に「自衛隊の方々の大活躍なくしては、この災害の復興は始まらなかったと思います」などと激励された。

 

 

 日本の世界に対する貢献にも深い関心を寄せられ、英国、ノルウェーなどとの親善に努められたほか、近年は世界最大の親日国、トルコのカマン・カレホユック遺跡の発掘現場隣接地に、研究棟一式を建設するための募金に奔走された。同遺跡における日本隊の発掘は、財団法人中近東文化センターが一九八六年から続けているもので、鉄を人間が使用するようになった時代の通説を覆すなど世界に冠たる実績を挙げている。殿下はこう書かれている(『皇族の「公」と「私」』)。

「いつの日か、カマン・カレホユック遺跡で発掘調査の結果、世界中の教科書・参考書の世界史年表がすべて書き替えられるかもしれないということが、いまかなりの確率で実現しそうなのです」

 なお、募金は御父君で古代オリエント史の権威、三笠宮殿下のご懇願を受け、「福祉・青少年育成・スポーツ振興・国際親善の四本柱で私の子分をしてくれている仲間」を一同に集めて始められたもの。いわば殿下のご活動の集大成だったと拝察される。

 

 

 六月十四日、東京・文京区の豊島岡墓地で「斂葬の儀」(一般の本葬)が執り行われ、多くの国民が追悼のため馳せ参じた。殿下のご生前のご業績とご遺徳を偲び、ここにあらためて哀悼の意を表します。

〈『明日への選択』平成24年7月号〉