地方経済は環境問題で活性化できる

地方経済は環境問題で活性化できる

環境問題への取り組みが求める「地産地消・地域自給」の社会モデルの実現は、地域の持ち味である「自然・風土・環境」を最大限に生かしつつ、「新たな経済循環」を創造する絶好のチャンスだ。


 

 いまや国際政治の最重要テーマは環境問題であるらしい。七月に開催予定の洞爺湖サミットも「環境サミット」とのことで、その時になれば、新聞もテレビも今以上に「環境、環境」の大合唱になるのだろう。

 さてそんな中、筆者はこの環境問題での盛り上がりを、いま衰退に直面している地方経済活性化への「追い風」として行くことはできないものかと考えている。というのも、この環境問題への取り組みは、これまでの社会のあり方の見直しと、新たな社会モデルへの転換を求めるものといえるが、それは地方再生にとっては〈逆風から順風へ〉の転換ともいうべき絶好の機会の到来でもあると考えるからだ。すなわち、それは安い石油、それを背景にした資源の浪費、グローバル経済を背景とした巨大集中型システム(ボーダレスエコノミー、水平分業)――といったこれまでの社会モデルから、「自立・分散」型社会、いい換えれば「地産地消・地域自給」が基本となる新たな社会モデルへの転換を不可避とするものであり、それは各地方が模索する新たな地方経済の可能性にとっての絶好の「フロンティア」の出現とも考えることができるからだ。

 これまで地方経済の活性化といえば、判で押したように企業誘致、公共事業――とされてきたのが現実であった。それが唯一、地方経済に活力を持ち来してくれる魔法の杖ともされてきたのだ。しかし、もはやそのような時代は終わろうとしている。いま大多数の企業の念頭にある新たな進出先は地方ではなく海外であるし、公共事業が志向してきた「土建国家」「セメント国家」の路線は、いまや完全に過去のものになりつつあるというのが現実であるからだ。

 そうした中、いま地方経済に求められるのはかかる外発型の活性化ではなく、むしろ内発型の活性化だというのが、本誌四月号で筆者が指摘したことであった(「地方再生に発想の転換が必要だ」)。それぞれの地方がかかる外部の力に依存するのではなく、むしろそれぞれの持ち味を生かして自立し、そこに独自の経済循環を作り出し、自力発展の道を見出していくことがこれからの課題だとしたのである。ということは、実は環境問題への取り組みが求める「自立・分散」型社会、つまり「地産地消・地域自給」の社会モデルの実現というコンセプトは、かかる考え方と方向を一にするものであり、まさにその地域の持ち味である「自然・風土・環境」を最大限に生かしつつ、省エネ・省資源・低炭素の新たな経済循環を創造して行こうとする試みでもあるという話なのである。

 とすれば、環境問題での盛り上がりは、地方経済活性化にとっての願ってもないチャンスの到来ともなるのではないか。以下、このことを具体例を通して論じてみたい。

 

◇自然エネルギー開発の可能性

 環境問題への対処という視点から、いま最も大きな関心が寄せられているのは、いかにして省資源・省エネルギーの社会を実現し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素等の排出量を削減していくか、という問題であろう。洞爺湖サミットでは、「ポスト京都議定書」に向けた排出量削減のための「新たな枠組みづくり」が主題になるとされる。

 ところで、そんな状況の中、もっと関心が寄せられてもよいのではないか、と思われてならないのが自然エネルギーの開発、とりわけそれによる新発電の可能性である。現在、排出されている温室効果ガスの約三分の一が発電の際に出るものとされるが、それを出さない太陽光、風力、バイオマス、マイクロ水力、廃棄物ガス……等々といった新たな発電の可能性だ。これはいうまでもなく、その地方・地方の自然特性を最大限に生かした環境負荷のほとんどない非化石燃料型発電方式だといっていいが、それとともにその地域にとっては材料の「自給」が可能な発電形態でもあり、巨大火力や原発といった「巨大集中型」発電がもつ万が一の場合の脆弱性にも対処しうる一石三鳥型の方式だともいえるのだ。

 むろん、だからといって、その開発と代替が必ずしも簡単な話でないことくらいは筆者も知っている。技術の未成熟による依然としたコスト高、自然条件に容易に左右されてしまう供給の不安定性、未だ一パーセントにも満たない代替の現実等々、それは未だにとても石油や原子力に代わりうる段階にはないことは、様々な報告書類が示すところでもあるからだ。とはいえ、だからこそというべきか、今こそ日本は総力を挙げてこの可能性に挑戦してみるべきではないか、と筆者には思われてならないのだ。外国に眼を転じれば、状況は必ずしもそのように悲観的なものではないとする指摘もある。例えば、竹村真一氏の以下のような指摘だ(「脱・石油文明への青写真」)。

 「太陽光発電や風力発電、バイオマスなどの自然エネルギーは、世界ですでに『代替』エネルギーという補完的な意味合いを超えた基幹エネルギーとしての位置づけを獲得しつつある。EU、とくにドイツやデンマークではすでに自然エネルギーによって電力需要の一五~二〇%をカバーしつつあり、それを踏まえてドイツは二〇三〇年には半分近くの四五%を自然エネルギーで賄うという高い政策目標を掲げている」

 「代替」どころか今や「基幹」とさえいえる位置づけを既にもち始めていると氏はいうのだ。むろん、その背景には国や自治体による積極的な誘導と助成があることは逸せられない。ただそれにもかかわらず、氏は今後「炭素に値段が付けられる」時代になれば、そうした助成に依存していた部分は旧来型の発電が排出した炭素のコストと相殺されることになり、コスト的には充分計算が成り立つ時代がくるとするのである。

 氏は更に指摘する。

 「それを裏打ちするかのように、世界の自然エネルギーへの新規投資額は年々倍増の勢いで、いまや一三兆円規模に達しており、一方で欧米の大手金融機関が従来型の石炭火力発電への融資を控える動きも見せ始めている」

 一三兆という数字が多いか少ないかは別として、これが時代の趨勢なのだと氏はいうのだ。世界の代表的な石油企業BP=ブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)でさえ、自らの企業アイデンティティを「BP=ビヨンド・ペトロリアム」(石油を超えて)と宣言する時代であり、これらの国や企業では今やこれがメインの関心になっていると氏は指摘するのだ。以下の指摘は興味深い。

 「アメリカの環境先進圏・カリフォルニアでは、IT産業の中心だったシリコンバレーがいまや自然エネルギーへの投資ブームで《ソーラーバレー》と呼ばれはじめている。また近代産業社会におけるホワイトカラー/ブルーカラーをもじって『グリーンカラー』と呼ばれる新たな産業労働セクター(階層)が、こうした自然エネルギー分野を中心に生まれつつあり、ドイツ一国でも自然エネルギー系産業全体で三兆円規模の売り上げ、新たな雇用も〇七年で二五万人規模、今後十年にEU全体で少なくとも百万人規模(アメリカでは三〇〇万~五〇〇万人規模)が創出されると見込まれている」(日本政策研究センター代表  伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成20年6月号より抜粋〉

【本稿の主な内容】

・環境首都フライブルグの先進的取組

・環境親和事業で地方経済を活性化

・森林・水田を守る「新たな経済循環」を

(続きは、『明日への選択』平成20年6月号で読めます)