農・林業を地方経済「再生」の切り札に

農・林業を地方経済「再生」の切り札に

山村、農村が活性化すれば、隣接する地方都市も活性化して行く。また地方都市が活性化すれば、そこに生まれた経済循環は農村、山村にも及んで行く。


 

 わが国ではこれまで、林業の生き残り、農業の再生ということが折りある毎にいわれてきたにもかかわらず、それが本格的な国民的議論として取り上げられることはほとんどなかった。しかし、今や新聞もテレビも連日といっていいほど、これらの動向の報道に余念がないというのが昨今の現状である。

 このような中、本稿ではかかる林業と農業の現状紹介を更に一歩進め、この林業と農業が今後、単なる林業の生き残り、農業の再生というレベルを超えた、地方経済全体にとっての再生の「切り札」ともなりうる可能性をもつことを論じてみたい。というのも、この林業と農業が活性化すれば、更にそこに、それをベースにした新たなビジネス・チャンスが生まれ、そこからその地域を巻き込む新たな「経済循環」が形成されて行く可能性が出てくる、と筆者は考えるからだ。

 つまり、林業・農業の活性化は一般に認識されているような単なる一次産業のレベルに留まらず、更にその地域の二次産業にも三次産業にも波及可能な、ダイナミックな経済的可能性をもち得る、というのが筆者の認識なのである。

 まずは林業からその可能性を見ていくことにしよう。

 『明日への選択』7月号では、京都議定書におけるわが国の温室効果ガス削減義務六パーセントのうち、三・八パーセントがわが国の森林の温室効果ガス吸収能力により賄われることになっていることを指摘した。むろん、そのためにはここ二、三十年、荒れるまま放置され、手つかずになっている森林の再生・保全がまず必要とされる。わが国の森林をそれだけの温室効果ガスが吸収可能な「管理された森林」にして行くことが義務として求められるからだ。具体的にいうと、この六年間で三三〇万ヘクタールという関東地方の広さにも等しい森林の間伐が求められることになる。

 当然のことながら、こうした動きはこれまで衰退一方にあった各地の林業に対するかつてない追い風になって行くであろうことはいうまでもない。「伐っても赤字が増えるだけ」と、荒廃するまま放置されてきたわが国の森林(とりわけ民有の人工林)に、保全・再生の一大インセンティブが働き始めることになるからだ。種々の報道にもあるように、国はこれを巨額の補助金で後押しし、第一線に立つ各地の森林組合はこれを機会に、作業の機械化、集約化、そして高齢化した作業員の若返りを精力的に進めようとしている。

 とはいえ、だからといって、いきなり林業が活性化し始めるという話ではない。現状は、まずは作業効率化のために高性能林業機械(伐採用の特殊車両)を導入し、その機械を山奥の現場にまで入れるための「路網」を開設し、更に安定した作業量の確保のために、所有者の異なる山林をある程度の作業規模に取りまとめる「施業の集約化」といった前段の作業にようやく眼が向き始めた、というのが実際のところであるからだ。いわば林業を採算のとれる産業にして行くための胎動がようやく始まった段階、といえようか。

 それでは、この林業を更に冒頭にも述べたような地方経済活性化の力強い現実的な起動力たらしめて行くためには、これからどのようなことが必要になって行くのだろうか。(日本政策研究センター代表  伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成20年8月号より抜粋〉

【本稿の主な内容】

・地域林業システムの事業体化

・森林を「利用し尽す」総合業へ

・農業も食料総合業へ

・都市の活力を農村に

(続きは、『明日への選択』平成20年8月号で読めます)