食育・食の崩壊と家庭② 円満な家庭の料理こそ世界一の美食

◆「主婦は誇りと喜びをもって、臨む職業です」

 最近、『くたばれ専業主婦』というとんでもないタイトルの本を本屋で見かけた。それから何日か経ったある日、新聞をめくっていると、毎日新聞(10月22日夕刊)に「主婦は誇るべき職業」という記事があり、思わず目が止まってしまった。

 そこに紹介されていたのは、神戸で「ザ・クイーンズ・フィニッシングスクール」という花嫁学校を主宰する佐藤よし子さんという主婦(45)。

 佐藤さんはかつて英国のザ・イーストボーン・カレッジで、未婚の女性が家事能力全般を身につけるための「家政学」を専攻したというが、その理由をこう語っている。

 「家事というと日本では、ぬかみそ臭いというイメージが根強く、留学生としては異例の選択でした。けれども『ハウスキーピング(家政)は、おしゃれですてきなこと』というアドバイスに心ひかれ、同校の門をたたいたのです」

 なるほど、家族や家庭を「女性の抑圧装置」として、家事からの解放を唱えるフェミニズムよりも、よほどまともで前向きな考え方だと思う。

 「家事をつかさどる者の重要性が、見直されるべきときではないでしょうか。専業主婦を『無職』とみなす風潮も残っていますが、主婦は秘書であり、会計士であり、料理長であり、相談役であり、教育者でもある。誇りと喜びをもって、臨む職業です」

 佐藤さんのコメントには、くたばれ何とかのようにトゲトゲしいところがまったくなくて、すがすがしい気持ちになった。

 
◆円満な家庭の料理こそ世界一の美食である

 まさに主婦は「扇の要」のように、家庭にはなくてはならない存在だということなのだろう。だからこそ、その役割がおろそかにされるとき、家庭には様々な弊害が現われる。例えば、食生活への影響はその最たるものだが、ここではその実例をアエラ(10月11日号)の記事から紹介したい。

 宮城県塩釜市の坂総合病院に務める角田和彦さんは、多くのアレルギー体質の子供を診察してきた小児科医。角田さんは子供に付き添う若い母親に、前日の食事を尋ねているが、あまりの内容に絶句してしまうことが多いという。その食事とは――、

    ▼熱があった幼児
    (朝)スポーツ飲料
    (昼)スポーツ飲料と菓子
    (夕)ヨーグルトと牛乳

    ▼腹痛の幼児
    (朝)パン
    (昼)インスタントラーメン
    (夕)調理ずみハンバーグ

    ▼下痢の幼児
    (朝)ミルクがゆ
    (昼)パンがゆ
    (夕)乳酸菌飲料

 こんな食事では、子供が病気にならない方がおかしい。何とかしなければと思った角田さんは、母親のための料理教室を開いた。ところが、

 「煮干しや鰹節で出し汁を取ってみそ汁をつくったところ、『とても美味しい』と大好評だった。『何の変哲もないみそ汁なのに』と不審に思って尋ねてみると、参加者の多くが『自分で出し汁をつくったことがない』と答えた。いつもは化学調味料を使っているらしい」

 角田さんは、「母親みずからの食生活の幅が狭いので、つくる料理が限られてくるのでしょう。つくり方が分からないと、すぐ化学調味料や調理済みの食品に頼るんですね」と話している。

 信じられないような話だが、これは角田さんの周りに限ったことではない。詳しくはアエラの記事を見てほしいが、ある調査によると、健康のための最低条件とされる「主食・主菜・副菜」の三種セットで食事している子供は、朝食で八・七%、夕食でも二四%しかいなかった。さらに、一種しか食べてない子供は、朝食で三七・五%、夕食で二二・二%もいたというのだ。

 「元気の源」であるはずの家庭の食卓がこんな状態で、健全で豊かな心をもった子供がどうして育つのか。帝国ホテルの料理長としてならした村上信夫さんが、「世界一の料理は何でしょうか」と問われて、次のように答えていたのを思い出した。

 「それは円満な家庭の料理です。愛情と工夫が備わった料理を上回るものはないでしょう。逆に一番まずいのは、乱れている家庭の料理です。家庭が乱れていれば、家族そろって食卓を囲むこともない、寂しい食卓です」と。

〈初出・『明日への選択』平成11年11月号〉