食育・食の崩壊と家庭③ 「食の崩壊」の背景

◆血液が語る若者のヘンな食事

 「献血ルームに来てくれる若い人たちに血液検査の数値の異常が目立ち、大変驚いている」――こう語るのは、千葉県赤十字センターの検診医・尾関由美氏。いったい若者の血液にどんな異常が現われ、その背景に何があるのだろうか(朝日新聞10月11日)。

 尾崎さんによると、最も多い異常は平均赤血球容積(MCV)の値が低いことだという。これは貧血につながる潜在的な鉄欠乏を示し、ここ半年で検診したのべ約千三百人のうち、正常値(健康を示す)を逸脱したMCV89未満の人が約六割、85未満が約二割いた。また異常のあった若い女性の約三割が貧血で、問診すると、そのほとんどに身体の異常が見られたという。

 「月経過多あるいは生理があまり来ないという答えで、子宮内膜症や栄養障害による卵巣機能の異常が疑われる。MCVの異常以外でも、男性では二十歳前後から肥満、高血圧、脂肪肝が見られ、また男女を問わず若い層から高脂血症もかなりある」

 この異常に危機感を覚えた尾関さんは、自宅近くのコンビニで若者たちの食品の買い方に注目してみたという。

 「するとカップめんと菓子パンだけ、清涼飲料水と菓子パンだけ、おにぎりとアイスクリームといったぐあいに、各種栄養素の必要量やバランスが全く頭にないとみえる場合がほとんどであった……献血ルームで『食事に偏りがないか』と聞くと、その点を自覚している若者でも安易に栄養補助食品に飛びつく傾向が強く、正しい食事の取り方を助言するのにてこずってしまう」

 つまり、極端な偏食にみられる「食の崩壊」が、血液の異常や病気を引き起しているというのだ。尾崎さんは次のように警鐘を鳴らしている。

 「私が心配するのは、一つには若者たちに身体の栄養のみならず、本来食卓で家族とのコミュニケーションから得られるべき心の栄養が足りていないこと、そしてもう一つは彼らが中高年に達したときには生活習慣病の罹患率が今の中高年よりずっと高まるだろうということだ……(親が家庭で)食事をつくり、それを家族がそろって食べるという習慣を取り戻させてほしい」

 
◆「食の崩壊」の背景にあるもの

 結局、これだけ食生活が乱れている背景には、家庭の役割が弱体化し、親が子にまともな食事を与えていないという現実がある。その実例が、週刊スパの特集に載っているので紹介したい(9月15日号)。

 「夫に出すものは、冷凍フライとか、味付け済みの肉とか、あとは揚げるだけ、焼くだけの蕫スピードおかず﨟。子供たちだけだと卵かけご飯に、味噌汁もつい、インスタントになりますね」

 こう語るのは、四才と一才の子供がいる二十七才の主婦。子供に「卵かけご飯」しか与えないのは、料理が苦痛で味噌汁のダシも取れないからだという。「OLのときは親に作ってもらったり、外食がほとんどなんだから、結婚して初めて料理を作るようになるわけで……」。

 また、六才の子供がいる二十九才の主婦は、コンビニ弁当やフライドチキンは当たり前、「マヨネーズご飯」が家庭料理の定番だという。とんでもない「家庭料理」だが、「だって、いいじゃないですか。子供が喜んでいるんだから。それが一番だと思うんです…子供は学校の給食で栄養がとれてるから大丈夫ですよ。それに食後には、カルシウム入りのお菓子を与えているし。たぶん怒られるから、主人には内緒ですけど」というから始末に負えない。

 「おふくろの味」とか「一家団欒」という言葉とは縁遠い「食卓の崩壊」が、日本の家庭で確実に進行している。

 
◆人間関係の基本となる「家庭」

 こんなお寒い状況を敏感に察知してか、去る十一月二十四日、最近の子供の心身の異変をテーマに「医療最前線」というシンポジウムが開催された。その中で、家庭における食事が子供のしつけにとっていかに大切かということを小児科の専門医たちが指摘している(読売新聞12月19日)。

 「大谷 ……最近は朝食抜きの子供が非常に増えているなど、生活習慣の変化が指摘されているが、どんなアドバイスができるだろうか。
 甲賀 子供の生活リズムを整えなさいと、常に語りかけている。食事はただエネルギーを摂取するだけではない。家庭の中でのしつけの場でもあり、家族としてのコミュニケーションの場でもあると思う。人間関係が下手な子供が増えているが、家庭は人間関係を学ぶ基本。『食』という字は、分解すると、良という字の上に人が乗っかっている。人を良くするのは食事で、非常に大事なものだと思う。
 細谷 食事の時に、大人が『おいしい』とか『楽しい』とか思って食べることが、実は大事と思う。子供がこうした親といっしょに食事ができれば、子供たちは食に対してそんなに問題を起こさないような気がしている」

〈『明日への選択』平成12年1月号〉