食育・食の崩壊と家庭⑥ 「免罪フード」が物語る食卓の崩壊

◆韓国で人気の「納豆」

 近年、テレビを問わず雑誌を問わずあらゆるメディアで、ゴマ、納豆といった食品が体にいいと注目を浴びている。これらは昔からそう言われてきたのだけれども、今は科学的な裏付けを以てその効能が紹介されるので余計に有り難がられているようだ。

 例えば、ゴマには「ゴマグナリン」という抗酸化物質が含まれ、成人病やがんの予防をはじめ、肝臓や女性のお肌にもいいということで若い女性から大酒飲みのオジサンまでがゴマに注目するようになった。納豆も同様だ。ところが、最近は「反日」の韓国でも日本の納豆が人気を呼んでいるという(東亜日報12月1日)。

 「韓国で豆を醗酵させ、ねぎ、キムチ、豚肉などを入れて沸かしたチョングックチャン(清麹醤、大豆から作った味噌の一種)と比較される食べ物で、日本には納豆がある。納豆は、ゆでた豆に納豆菌(バシルロス菌)を接種して42~45度で24時間、醗酵させた後、10度で約20時間、熟成させて作ったもの……最近、各種の成人病予防に効果があるという研究結果が出て、韓国でも少しずつ人気を呼んでいる。
 韓国のわらで納豆菌を抽出した技術を利用して、納豆を作るのに成功したソウル納豆研究室の李ヨンス博士は、『納豆には強い血戦(註・血栓)溶解酵素〈納豆キナーゼ〉が含まれていて、中風のような脳血管疾患を予防し、納豆菌が作ったビタミンKは骨を丈夫にしてくれる』と語った」

 取るに足らない話ではあるが、韓国の大手新聞で取り上げられたのは何年か前に日本文化の輸入禁止という建前が解かれたせいかもしれない。こんなところにも日韓関係の特殊性が窺える。

 
◆「免罪フード」?

 一方、韓国とは逆に日本ではこの健康志向の陰で、奇妙な現象が起こっている。食と家族の関係などについて長年、家庭の食卓を調査・研究している岩村暢子氏によると、納豆やゴマさえ食べていれば、日常的な食事はおろそかにしてもいいという認識が、特に一九六〇年以降生まれの主婦の間に見られるというのだ(中央公論一月号)。

 「例えば、『健康のために野菜ジュースを出すことにしている』という主婦はたくさんいるが、多くは、その代わり野菜料理を作らずに済ませることを意味している。……『健康のために納豆を食べさせることにしている』という主婦もよくいるが、夕食など副食が貧弱なときに、ことさら納豆の健康機能が強調され、野菜料理の代わりともされる。……私はこれらを『免罪フード』と呼んでいるが、免罪フードのよく出る食卓や、手のかからない栄養・健康志向食品の多い食卓ほど、結果として不健康で粗末な内容になってしまう、ということになる」

 
◆「無理しない、頑張らない」が家庭を弱体化させた

 六〇年生まれ以降の世代になぜこのような傾向があるのか。岩村さんはアンケート調査など長年の研究の中で、この世代にはある価値観があることに気付いたという。

 「それは『無理しない、頑張らない自然体』『明るく、楽しく』そして『みんな仲良く』の三つである。
 例えば、朝起きなかったり、食事を作らない主婦も『無理しない、頑張らない自然体』である。……食べたがらない子供に朝、無理に食べさせようとしたり、好き嫌いを矯正しようとすることも『子供に無理強いしたり我慢させるのは良くないことだから、しない』。そこで、朝食に子供が『食べやすい』(喜んで口に運ぶ)菓子的なものが選ばれるだけでなく、子供のオーダーやリクエストに応えて、食べたがるものばかり食べさせようとしている」「将来、誰とでも楽しく食事できるようになるための『しつけ』は、今日の食卓が『暗くなる』からされない。衝突したり、問題を露見させたりするのはいけないから、先回りして子供の要求に応える、偏った食事にもなる。家族の健康を語りながら、『無理しない』ために自分は朝起きずに、朝食は子供に任せっきりというケースも増えている」

 そういう家庭は、表面的にはいつも無理せず、明るく楽しくしているように見えているけれども、と岩村さんは言葉を濁しながらこう結んでいる。

 「しかし実は、本気でかかわりあうこと、題点をごまかさずに見つめること、お互いが何かのために耐えたり我慢したりすることといった、家庭でしかできない基本的なしつけや教育などを社会的に担っていたはずの『家庭の能力』は、相対的に弱体化しているのである」と。

〈『明日への選択』平成15年1月号〉