「本当を百回」の対外広報へ

「本当を百回」の対外広報へ

ようやく始まった外務省の姿勢転換 


 

 「黙っていても分かってくれる、では甘い。発想の転換が必要だ」

  日本外交の対外発信のあり方について、外務省アジア大洋州局審議官の金杉憲治氏が先日、自民党の会合でこう述べたという。野田政権の首相秘書官だった頃の自らの体験を振り返っての「自戒の言」である。

 自分的には「気づくのが遅すぎ」とでもいいたいところだが、外務省としてはこれでも大変な変化なのだろう。「プロパガンダ外交はやらない」としてきた彼らが、発想の転換が必要だとその姿勢を変えたからだ。「嘘も百回いえば」式の中韓のえげつない対外発信に対抗していくためには、まさに「本当のことでも百回いう」くらいのタフな姿勢でなければやってはいけないということなのだ。

 中国は尖閣問題を巡る対立の責任は、ここ40年間の「棚上げ」の合意を破った日本側にあり、日本は日清戦争で尖閣を「盗取」した、とさえいう。韓国は韓国で、慰安婦問題は日韓請求権協定の「対象外」だった、といつの頃からか主張し始め、最近になっては憲法裁判所は、「韓国政府が日本と(この問題に関し)外交交渉を行わないのは、『被害者の基本的人権を侵害し、憲法違反に当たる』」とまでいい出すに及んでいる。

 それどころか、これまでは韓国政府自らが「解決済み」とし、それを踏まえ韓国政府自らが補償を実施してもきた「韓国人徴用工」の問題に対しても、憲法裁判所は「反人道的な不法行為や植民地支配と直結した不法行為による損害賠償」は「請求権協定の対象外」だとし、その決定に基づきソウル高等裁判所は、それに関わる新日鐵住金や三菱重工に対し、損害賠償の支払いを命ずるまでに至った。

 これまで日本の外交当局は、こちら側が誠意を示せば、相手側は必ずそれをわかってくれる、とただひたすら低姿勢でこうした主張に臨むことを基本としてきた。彼らの主張が誤っていようが筋違いだろうが、まずは「かつての加害者」としてそれを受け入れる、という「度量と誠意」を示すことが大切だとしてきたのだ。

 しかし、それがどうなったか。以上に挙げた事例はその一部に過ぎないが、まさにその結果は真逆だったという他ない。誠意を示せば示すほど、感謝されるどころか、更につけ上がり、その主張を更にエスカレートさせて「卓袱台返し」にまで出る。それだけではない。最近に至っては、世界に向かってそのデタラメな主張を発信し始めてさえいる。

  産経報道(11・5)によると、冒頭の外務省の姿勢転換は言葉だけではないようだ。とすれば、それを単なる微修正に留めることなく、抜本的な対外広報の体制づくりをも含めた根本からの転換へと具体化していってほしい、と願わずにはおれない。

  実は関係者には知られていることだが、外務省は慰安婦問題について、初めから謝罪一辺倒だったわけではない。平成8年、あのクマラスワミ報告が国連に提出された時、何とA4数十ページにわたる堂々たる反論を用意していたのである。ところが当時社会党と連立を組んでいた橋本政権は、閣内の左翼勢力の圧力を受け、この外務省の反論文書を撤回させてしまう。そんな反論は外交上好ましくないとしたのだ。それが外務省のその後の路線を決めたことはいうまでもない。

 むろん、外交というものは、ただ勇ましく主張すればいいというものではない。とはいえ、事実でないことを事実とまでいうのはやはり間違っているし、主張の誤りは誤りと断固正すことが大前提だ。誰かもいっていたが、相手が「嘘も百回いえば」の精神でくるなら、こちらは「本当を百回」の精神で倍返しすることが肝要なのだ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

 

〈ChannelAJERプレミアムメールマガジン 平成25年11月20日付より転載〉