「世界の和食」はいかにして成立したか

 きのう12月4日、和食がユネスコの「世界無形文化遺産」に登録された。率直によろこばしいことであり、誇らしい気分にもなる。

 日本政策研究センターの月刊誌『明日への選択』では、この和食の素晴らしさについて、様々な切り口から紹介してきたが、ここではその一部を紹介したい。


 

 スシ、テンプラ、スキヤキ、ミソスープ、トウフ……今、世界中でこれらに代表される「和食」あるいは「日本食」「日本料理」といわれるものが注目を浴びている。そうした中で、政府は「和食」を「世界無形文化遺産」に登録することを目指し、ユネスコに提案書を提出した。

 日本の和食が世界で注目されていることは率直によろこばしいことであり、なにか誇らしい気分にもなるが、しかし、当の日本の「食」の現状はどうかというと、洋風化・多様化が著しく進み、和食はワン・オブ・ゼムの料理に過ぎなくなっている。また世界に注目されているといっても、その和食の良さや成り立ちを今日のわれわれはほとんど知らない。これではたとえ「世界遺産」となったところで虚しい限りではあるまいか。

 そこで、『巨大都市江戸が和食をつくった』の著者で、食文化史や近代農業史の専門家でもある渡辺善次郎氏に、世界から注目される「和食」の成立過程と、その歴史から見た日本人の「食」の在り方について聞いた。

 

◆世界に普及する和食

 ―― 今、世界中で「和食」「日本食」が人気だということをよく聞きますが、実際には各国でどのように見られているのでしょうか。

 渡辺 じつを言いますと、僕はこれまで六十カ国ぐらいを旅して回ってきたんですが、どこへ行っても日本食があるんです。

 ニューヨーク、パリ、ロンドンなどの大都市はもちろんだけれども、南太平洋のタヒチやフィジー、アフリカのタンザニアやケニアなど、日本人が余りいないようなところでもスシ・バーがあるし、スーパーに行けばトウフ、ショウユ、ミソスープなどの日本食が並んでいます。そんなところで地元の人が買って成り立つのだから、これはもう日本人だけの食べ物ではなく、世界中の人間が食べているんだと実感しますね。

 特に先進国では、スシ、テンプラ、スキヤキはもう一巡して、今では手打ちそばやふぐ料理まで食べるようになっていますし、アメリカでは枡の端に塩をのせて冷酒を飲むのが流行ったこともあります。「sushi」だけでなく「sake」もすでに世界語ですよ。また、ニューヨーク・タイムズの社員食堂には焼きそばや冷し中華もあるし、パリのオペラ座近くにはラーメン屋横町まであります。

 ―― 日本食は日本人が想像している以上に普及しているんですね。

 渡辺 もっとも、それらは日本人が作っているとは限らないし、これが日本食かと思うものも多い。

 二年前にノルウェーのベルゲンという、音楽家のグリークの出た港町でスシ・バーに入って、メニューにあったのでミソスープを頼んだら、真っ黒なスープが出てきました。何だこれはと思いながら飲んでみたら、醤油をお湯で割ったものだった。

 パリのカルチェ・ラタン地区で日本食レストランに入ったときは、フランス人のカップルがいて、ごはんを頼むなり醤油をジャバジャバかけていた(笑い)。

 世界中に普及しているといっても、ちゃんとした日本食と言えないものも多いんです。でも、日本だって明治の頃に洋食を食べ始めたときは外国人がびっくりするようなものでしたから、だんだん洗練されてゆけばいいなと思って見守っています。

 それから、世界を旅していると、よく「日本人は素晴らしく頭がいい」と言われるんです。これは高品質な日本製品からマンガのようなサブカルチャーまで日本のいろいろなものが世界に普及した影響、つまりるところ日本の国力の反映だと思うのですが、彼らは続けて「頭がいいのは、魚を食べるからだ」と言う。

 僕は二年ほどスペインにいたことがあって、時どきスペイン人の友人に食事に招かれました。その家では普段は魚はあまり食べないのですが、僕が行くときは「日本人だから魚がいいだろう」と魚料理でもてなしてくれる。だけど、普段は食べないせいかその家の子供たちはイヤな顔をしているんです。それでお母さんが、「食べなきゃ日本の方みたいに頭よくならないわよ」と(笑い)。

 まあ、そんなふうにメイド・イン・ジャパンは優秀でクールだ。それをつくる日本人は頭がいい。なぜか。魚を食べているから。そういう三段論法で、日本食はインテリジェントなものであるというふうにも捉えられています。

 ―― 非常にいいイメージで日本の食文化が受け入れられているわけですね。

 渡辺 いいですね。海外で日本料理店というと、だいたいは高級店で、インテリや中から上ぐらいの階層が日本食を支持していて、一種のステータスシンボルになっています。

〈『明日への選択』平成24年12月号より抜粋〉

【本インタビューの主な内容】

 ・世界に普及する和食

 ・世界は日本が好き

 ・米国で理想とされた日本の食事

 ・FOODは風土

〈続きは『明日への選択』平成24年12月号でお読みになれます〉