皇后陛下の御養蚕

 「皇后陛下のご養蚕」という映像が、今日から政府インターネットテレビで視聴できる。宮内庁がこのほど作成したDVDが基になっている。

 この映像は、皇后陛下が毎年春から初夏にかけて、皇居内で行われている御養蚕の様子を紹介するもの。天蚕の繭の収穫を両陛下でなさっておられる貴重な映像も含まれていて、感動した。皇后陛下がどのようなお気持ちで御養蚕をなさっておられるかということが御言葉や御歌とともに紹介されるほか、御養蚕で育てられた蚕からとれる生糸が、皇室祭祀の装束や外国元首への贈り物に使われること、さらには正倉院宝物などの復元に役立てられていることも紹介されている。是非ご覧いただきたい映像だ。
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg9310.html

 なお、宮内庁は、文化庁、国際交流基金とともに、2月19日~4月5日の間、フランスのパリ日本文化会館で、「蚕-皇室のご養蚕と古代裂、日仏絹の交流」という展覧会を開催するという。

 ちなみに、以下は、皇后陛下の御養蚕について紹介した『明日への選択』の記事である。関心のある方は、ご参考まで。


 

皇后陛下の御養蚕(『明日への選択』平成24年5月号より)

 先日、皇居・三の丸尚蔵館で、皇后陛下喜寿記念特別展「紅葉山御養蚕所と正倉院裂復元のその後」が催された。両陛下を始め、皇族方が御鑑賞になり、展示されていた皇后さまから眞子さまへの手紙が話題となったが、マスコミは御養蚕とは何か、正倉院裂復元とは何かという肝心なことは殆ど紹介していなかった。

 本誌は今から七年前の平成十七年八月号で、季刊誌『皇室』の編集担当、岡田尚子さんに皇后さまの御養蚕についてインタビューしているが、改めてそこから紹介しよう。

 

◆「もうしばらく古いものを残しておきたい」

 近代における皇室と御養蚕の関わりは、明治四年に昭憲皇太后がお始めになり、以来、貞明皇后、香淳皇后、皇后さまへと継承されてきた。

 皇后さまは毎年五月~七月、「御養蚕始の儀」をはじめ、蚕に桑を与える「御給桑」、蚕が繭を作る場所へ移す「上蔟」、初めて繭を蔟から取り出して収穫する「初繭掻き」などの儀式に関わられるが、それだけではない。

《お忙しい御公務の合間を縫い御養蚕所に足をお運びになり、桑の葉を摘んだり、蚕が繭を作るときの足場となる藁蔟を作られたり、あるいは成虫(蛾)が繭から出やすいように繭の両端を切る作業など、あらゆる工程に関わっていらっしゃいます。》

 そこで育てられる品種に「小石丸」がある。養蚕業の衰退とともに皇居でしか生産されなくなった貴重な品種だが、御養蚕所でも昭和の終わりには一旦、飼育中止が検討されたという。

《しかしその時、皇后さまが「日本の純粋種と聞いており、繭の形が愛らしく糸が繊細でとても美しい。もうしばらく古いものを残しておきたいので、小石丸を育ててみましょう」と仰せられたことで、引き続き飼育が続けられることになったのです。
 この「もうしばらく古いものを残しておきたい」というお言葉にもうかがえるように、皇后さまはやはり歴代の皇后さま方が守ってこられたということを大切に思われていたのではないでしょうか。》

 皇后さまが歴代皇后から継承された御養蚕をいかに大切になさっているかということは、今回話題になった眞子さまへの手紙にもうかがえる。

《今はばあばがご養蚕の仕事をしていますが、このお仕事は、眞子ちゃんのおじじ様のひいおばば様の昭憲皇太后様、おばば様の貞明皇后様、そしてお母様でいらっしゃる香淳皇后様と、明治、大正、昭和という三つの時代をとおってばあばにつたえられたお仕事です。》

 

◆「これは本当に皇室という御存在があるお陰だなと思いました」

 ところが、この小石丸がはからずも役に立つことになる。

 平成六年に始まった「正倉院宝物染織品復元10か年計画」で絹織物が復元されることになったのだが、そこで一番問題だったのが、材料になる糸の問題だった。現在の糸では太すぎるし、織ると風合いが違うのだという。

 いろいろ調べた結果、復元に一番相応しいのは小石丸だということが分かった。しかし、一般では生産されておらず入手できない。やがて御養蚕所でのみ育てられていることが分かったものの、やはり入手は困難と思われた。ところが、思いがけないことが起こる。

《侍従職に御下賜の可能性を問い合わせたところ、「天皇皇后両陛下がたいへんご興味を持たれている。小石丸をどのくらい必要なのか」という前向きな回答があった。関係者は「夢を見ているような」とありがたく思ったそうです……。》

 しかし、今度は量が問題となった。復元に必要な生繭は最低四十キロ。当時御養蚕所での生産量は六~七キロ。必要量を確保するにはかなりの増産が必要だ。むろんスタッフの負担も増える。

 ところが、この問題も皇后さまの思し召しで乗り越えることが出来た。

《皇后さまも当初その点をご心配になったのですが、最終的にはこの要請をすべてお聞き入れになり、小石丸を増産し下賜してくださることになったのです。》

 最終的には、小石丸の生繭四十八キロが下賜された。そして文様、色彩だけでなく、宝物の特徴まで可能な限り厳密に再現した品々が完成した。千三百年前の貴重な宝物が、皇后さまの御養蚕により現代に甦ったのである。

 最後に、取材を通じて最も心に残ったことは何ですかと聞いたところ、岡田さんからはこんな言葉が返ってきた。

《やはりこの復元事業は、天皇皇后両陛下の思し召しなくしては成り立たなかったということです。私自身この取材を通して、歴代の皇后さまによって小石丸という種が守られてきたこと、また「天下の至宝」が復元されたという事実に接し、これは本当に皇室という御存在があるおかげだなと思いました。》

〈『明日への選択』平成24年5月号〉