人口減少克服へ「もう一つの経済」構築を

 増田寛也氏らによる衝撃の提言が契機となり、人口減少の問題に対する各界の関心が高まりつつある。遅きに失した感は否めないが、まさに対策を打つとすればこれが最後のチャンスだともいえよう。その意味で、最近の各界からの動きには大いに注目したい。

 なかでも心強いのは、政府がこの人口減少問題に着目し、地方創生に向けた本格対策に乗り出す姿勢を示したことだ。これはこれまでの政府の成長戦略に欠落している視点を補うものとしても、大いに期待したいところといえる。

 というのも、これまでこの成長戦略の根本にあったのは、要はグローバル経済にどう対応していくか、という視点に他ならなかった。しかし、それとともに、そのグローバル経済がもたらした「負の影響」というものを、どう是正し、補っていくかという問題も、実は決して忘れられてはならない視点だといいたいからだ。

 人口減少の問題に引きつけていえば、今最大の課題として論じられているのは、二十代の若者の結婚・出産動向をどう改善していくか、という問題である。そして結論としていわれるのは、要は若者が今置かれている経済環境を、結婚や出産を積極的に考えられるものへとどう改善していくか、という問題だといえる。ならば、現在の若者の経済環境がなぜかく問題指摘されるまでに悪化したかといえば、そこにこのグローバル経済の「負の影響」というものを考えないわけにはいかないのだ。

 例えば、グローバル経済への対応ということになれば、企業は常に新興国との競争を迫られる。いかに日本は品質が勝れているといっても、新興国の企業や労働者の能力もまた高度化している現在、日本人の賃金水準をそれを無視して設定することは許されないのである。となれば、若者の経済環境の是正は、このグローバル経済の問題を踏まえることなしにあり得ないということなのだ。

 増田氏が「人口のブラックホール」と名付けた東京への一極集中も、このグローバル経済への対応と無縁ではない。細かい論証は省くが、この一極集中の現実はまさにこのグローバル化が加速してもたらしたものという他ないからだ。日本を代表するグローバル企業がかくまで東京に集中して本拠を構えようとする以上、他の企業もそれに従い、東京を中心に動こうとするのは不可避で、よって人間もまた、この東京に集まってくる他ないのが現実なのである。

 とすれば、少なくとも人口減少対策という視点でいえば、このグローバル経済の流れとは別次元に立つ「もう一つの経済」というものを意識的に育てていくという発想をもたない限り、その達成は見えてこないともいえよう。グローバル経済に合わせようとすればするほど、国民の賃金水準は低くなり、生活環境は厳しくなり、地域経済の疲弊は進んでいく。とすれば、むしろここで必要なのは、それとは異次元の発想に立つ「自立の経済」を創出していくことではないか。先々号で筆者は自動車を買う際のローンすら組めない若者の話を紹介した。国際競争を考えれば、正規よりも非正規で雇う方がコスト面では合理的だ。しかし、それは回り回って、その企業の製品すら買うことができない若者を多く生み出す話になっているのである。とすれば、そろそろそうした矛盾を根本から考えてみるべき時だということなのだ。

 しからば、それはどんな経済かといわれれば、簡単に結論の出る話ではない。しかし、かかる発想によりささやかではあれ着実に地域を活性化させ、若者を呼び込み、出生率を上げている地域が出ているのも事実なのだ。今回の政府決定はかかる方向を見据えてのものだろう。その先行きに心から期待し、注目するものだ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成26年8月号〉