捕鯨問題の基礎知識

 三月末に、日本の調査捕鯨を差し止める内容の判決が、国際司法裁判所から出された。この判決については、『明日への選択』(平成26年6月号)掲載の小松正之氏の論文「捕鯨問題打開へ日本は戦え」をお読みいただきたいが、ここではかつて本誌に掲載した同氏へのインタビュー(23年4月号)を基に、捕鯨問題の基本的事実をおさらいしておきたい。

 

◆鯨は大量の魚を食べていた

 今回の裁判は、二〇一〇年にオーストラリアが、南極海での日本の調査捕鯨は事実上の商業捕鯨であり国際捕鯨取締条約に違反しているとして日本を提訴したところから始まった。提訴されたというだけで、何か日本が悪いことをしたかのように受け取る向きもあるが、小松氏は言う。

 「そもそも日本の調査捕鯨は、国際捕鯨取締条約(第八条)に基づく合法的な活動です。調査で捕獲した鯨の肉を販売することと、その収入で経費を賄うことは……条約上の義務であり権利なのです。後ろめたいところは一つもない」

 今回は残念ながら敗訴という結果となったが、このことはまず確認しておきたい。

 では、そもそも日本はなぜ調査捕鯨を始めたのか。それは一九八二年に国際捕鯨委員会(IWC)で「商業捕鯨の一時停止」(モラトリアム)が採択されたからだ。小松氏によると、この採択自体、捕鯨産業の健全な育成を目標とする条約の趣旨に反するが、反捕鯨国は「鯨資源が絶滅の危機にある」と事実に反する主張を展開し、また数の力を背景に、強引に決定したという。ただし、モラトリアムは一九九〇年までに捕鯨枠を見直すという条件が付いていた。そこで始まったのが、日本の調査捕鯨だった。

 調査は一九八七年から二〇〇五年まで南極海で実施され、その結果、ミンククジラの資源量は捕獲に耐えうるほど充分であること、系統群がいくつかに分れること、南極海は北半球に較べてきわめて汚染が少なく、ミンククジラは安全で良質の食肉たりうること、さらにザトウクジラやナガスクジラなど大型鯨類資源に顕著な回復傾向がみられることが分かった。世界の科学者の間から、きわめて高く評価された。だが、鯨が絶滅の危機にないことが明白になっても、反捕鯨国はモラトリアムの解除に応じなかった。

 なお、二〇〇五年からは第二期調査が始まり、ミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラの資源調査、餌の分布、大気や海水などを含む南極海の環境・生態系の状況把握を目的に実施されてきたが、これが今回の裁判で俎上に載せられた(詳細は小松論文)。

 

◆調査捕鯨はなぜ始まったのか

 一方、南極海とは別に、北西太平洋でも、日本の調査捕鯨は実施されてきた。

 こちらは九三年のIWC京都総会で、反捕鯨国が科学的根拠のない計算方式を提案し日本の捕鯨枠を低く見積もろうとしたため、これが正しくないことを証明するために始まった。詳細は省くが、調査の結果、この計算方式が正しくないことが証明された。

 二〇〇〇年からは第二期調査が始まり、ミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、マッコウクジラを捕獲し、鯨の捕食実態や系群構造、海洋汚染状況などを包括的に調査した。その結果、鯨が大量の魚を食べていること、北西太平洋は南極海に較べ海洋汚染が進んでいることなどが判明。特に魚をめぐって漁業者と鯨が競合するという課題が浮き彫りになった。

 「北西太平洋で捕獲された鯨の胃を開いてみると、大量のサンマ、カタクチイワシ、アカイカ、シマガツオ、シロザケ、マイワシ、マサバなどが出てきました。量も膨大で、ミンククジラの場合は年間で、カタクチイワシを四十~五十万トン、サンマを三十万トンも食べていると推定されました。ミンク以外の鯨も含めればどれだけ多いかが想像されます」(小松氏)

 日本鯨類研究所の試算によると、鯨が食べる魚介類は約二億五千万トン~約四億四千万トンで、人間の三~五倍。日本の漁獲生産量は乱獲で減っているが、鯨が増えている影響も考えられた。「従って、鯨を適当に間引いて、食糧資源として利用することによって、人間の漁獲に回したり、漁業資源の回復に充てることが必要であるということが、北西太平洋での調査捕鯨で明らかになったのです」(小松氏)。

 このように、日本の調査捕鯨は、きわめて有益な科学調査だった。対照的に、反捕鯨国は科学的根拠に基づかない主張を展開し続けてきたばかりか、一九九一年までに見直す約束だった商業捕鯨モラトリアムを未だに解除していない。これは国際法違反だ。

 捕鯨問題を考える上で、こうした事実は知っておきたい。

〈『明日への選択』平成26年6月号〉