この道しかない、この首相しかない

 「景気回復、この道しかない」と安倍首相は今回の選挙で訴えたが、この「この道しかない」との言葉こそが、わが国の今を象徴するキーワードなのではないか。

 日本は今、大きな分岐点に立っている。再生か衰退か――その選択を誤れば、まさにこの国に明日はない。首相はそうした状況の中で、「この道しかない」と確信をもって方向を示したのだ。勝利はその首相への国民の返答である。

 野党は争点であるアベノミクスへの様々な批判を展開した。格差の拡大、地方経済や中小企業の疲弊、円安の弊害……等々。その中には実は肯綮に値する指摘もあった。しかし、ならばどうすればよいか、と逆に問われた時に、彼らには「これこそ」と提案できる代案がなかった。民主党は「分厚い中間層の充実」などと例により弁じたが、ならばそれをどうやって実現するのだ、となった時に、またもやこの党の「宿痾」ともいうべき体質をさらけ出す他なかったのだ。口先だけの政党、評論家政党というこの党の体質である。

 これに対し、安倍首相の言葉には、まさに「この道しかない」と信ずる一国の宰相ならではの覚悟があった。国民だってバカではない。細かい経済理論などわからなくとも、どちらにこの日本を委ねたらよいか、これで理解したのである。「この人しかない」と。

 かかる国民の大きな信任を得たことにより、安倍首相は「この道」を改めて突き進むこととなった。マスコミは「大勝による驕りが心配」などと書いたが、これがいかに的外れか、首相の心境を少しでも考えてみれば、わかるはずのものである。「この道しかない」ということは、そこに背水の陣を布いた、ということなのだ。驕ってなどいられる場合でないことはバカにでもわかるはずだ。

 要は首相には、尋常ではない危機感がある、ということなのである。首相の念頭にあるのはまずは中国であろう。この覇権意欲むき出しの大国に対し、日本は一歩たりとも退くわけにはいかない。そのためには、何よりも国力が必要であり、とすればこの二十年にも及ぶデフレの泥沼の中での、これ以上の停滞は許されないのだ。

 そう考えれば、安倍首相の心中の危機感・切迫感がいかほどのものか、わかるであろう。ここであえていえば、首相に与えられた時間的猶予はとりあえず二年半だともいえる。安倍首相は今回増税を延期し、その代わりに十七年四月には必ず実施する、と約束した。つまり、それまでに必ず日本経済を成長軌道に乗せ、増税できる経済環境を整える、と公約したのである。ということは、それができなければ、日本経済はデフレから脱却できないのみならず、この増税によって再生への最後の希望も絶たれる、ということなのだ。

 しかし、この選挙によって、改めて首相に強力な「政策推進力」が与えられることになったのも事実だ。猶予は二年半といったが、昨年春の消費税増税により、一時的に落ち込んでいた日本経済にも回復の兆しが徐々に見え始めているとの指摘もある。原油安で先進国経済が再び息を吹き返し、円安の効果で観光客急増や日本企業のUターンなどの好ましい動きが今後眼に見えて現れてくる、と指摘するエコノミストもいる。とすれば、まさに今は、その流れを目一杯加速させていく時なのだ。

 この通常国会はいよいよ安保法制整備を論ずる国会となる。そして、この夏にはいよいよ「終戦七十年」を迎える。それを前に、早くも中韓は蠢き始めているが、かかる動きには官民一体となり、毅然と反撃していく必要がある。

 むろん、その先には憲法改正が控える。とすれば、われわれもまた「この道」と「この首相」を信じ、進む他ないということでもあろう。これが今年の覚悟だ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成27年1月号〉