「地域のヘソ」小学校を活用せよ

 少子化・人口減少が進んでいることから、1月19日、文部科学省は、小中学校の統廃合を検討する際の「手引き」をおよそ60年ぶりに改定した。NHKニュースによると、「クラス替えができないほど小規模になった場合は速やかに統廃合を検討するか、統廃合ができない場合はデメリットを解消する対策に取り組むか、選択を促すものとなっています」という。この「手引き」は近く、都道府県の教育委員会を通じ全国に通知されるという。

 今回、「手引き」がまとめられた背景には、クラス替えができないほど子供が減り、子供が多様な考え方に触れることができなかったり、多数の中でもまれない……等々の実情があるそうだ。しかし一方、離島や山間部などでは統廃合をしようにも地理的に難しいケースや、学校を地域の存続・発展の中核的施設と位置付けるケースもあることから、選択を促すものとなったようだ。

 今後、統廃合をめぐって議論が活発になりそうだが、ここでは参考までに、医学博士で国立健康・栄養研究所理事長などを歴任した渡邊昌氏の発言を紹介したい。地域における小学校の重要性について、渡邊氏は非常に興味深い発言をしている。以下、『明日への選択』のインタビューより。

 


 

◆「地域のヘソ」小学校を活用せよ

 

 渡邊 超高齢社会に対応するには地域医療資源を利用する。そのために統合医療コーディネーターをつくる。さて、問題はその拠点をどこに置くかということです。私はいろいろ考えたのですが、小学校が一番いいという結論に達しました。

 じつは過疎村で小学校を廃校にした地域は次々に消滅しているのです。小学校の存在というのは地域にとってそれほど重要な指標で、明治以来、地域のヘソとして機能してきました。小学校は明治時代に全国で二万五千校、今もやはり二万五千校くらいあります。これを死守することが、日本再生の一番の近道だと考えています。

 そう考えるに至ったのは、こんな経験からです。政府の食育推進委員をしていた時に、小学校単位で食育コーディネーターというのを置いてもらいました。すると、地域によってはJAや医師会、商店などいろいろなところが協力してくれて、そうして子供たちにきちんと食育をやった所は「地域力」がアップしたのです。文科省が以前、子供たちに「自分の故郷は好きか」というアンケートをしたところ、なんと、八~九割の子供が「嫌いだ」と答えのですが、食育がうまくいっている地域では、九割がたの子供が「好きだ」と答えるように変わった。

 他方、国は全部縦割りで動いてきたから、文科省は学校を作る、総務省は公民館を作る、厚労省は病院を作るとハコモノばかり作ってきました。でも、人口二万とか五万の市町村が三つも四つもハコモノを持ったら、維持費だけでまともに動かない。それで私は、小学校を「地域のコミュニケーションセンター」として位置付け直すのがいいのではないかと思い始めたのです。

 今、小学校は少子化もあって、空き教室が増えています。また、午後は空くというような教室もいくらでもありますから、そういう所に統合医療や健康づくりの拠点を置いたらどうか。小学校単位ですと、老人や子供も歩いて集まれます。例えば、要支援1程度の高齢者が自由に出入りできるようにし、学童保育の子供たちも一緒に預かれば、子供と老人は相性がいいので、認知症の進行も止まるかもしれない。

 日本の高齢者対策は収容所型で、要介護度はひたすら進行して死に至るというのが当たり前になっています。患者を全人的に捉えて一番いい方法をとるという発想が抜け落ちているので、高齢者に生き甲斐を与え、こころを活性化し、自己治癒力を発現させて健康長寿を実現するということができない。

 では、私たちならどうするか。認知症でいえば、今、一番足りないのが話し相手です。話さないことで症状が進んでしまう。だから皆が集まって雑談したり、子供の面倒を見たり、元気なお年寄りには草取りでもボランティアでも何か地域の役に立つよう促します。誰かのために働くことで生き甲斐が湧いてくるし、生き甲斐をもって働くことで体も元気になる。これが患者の体だけでなく、人間そのものにアプローチする統合医療の要諦です。

 それから、備蓄米を小学校に置き、給食に順繰りに使えば無駄がない。また、最近は小さな畑や菜園で無農薬のおいしい野菜を作っている人がいたりしますから、小学校に持ち寄って「道の駅」みたいにすれば、地域活性化の拠点になるかもしれない。

 さらに、災害対策でも小学校は重要拠点になります。三・一一を経験した私たちは、未曾有の大災害で日本の主要都市・地域が壊滅したとしても、もはや「想定外」では済まされません。しかし、たとえ日本の半分が潰れても、小学校単位の自立した地域共同体があと半分残っていれば、日本民族は存続できるでしょうし、生き残ったところから国を再生することもできるでしょう。

 まあ、この頃学校は変質者などを入れないように垣根を高くしていますが、学校こそ地域の拠点としてオープンにすべきですね。今、教育委員会制度の改革が検討されていますが、とてもよいことです。長い間、日教組に牛耳られていた教育行政は、少し頭を入れ換えることが必要でしょう(笑い)。

〈『明日への選択』平成26年8月号「医療費は『食』で十兆円減らせる」より抜粋〉

 

【渡邊昌氏プロフィール】

わたなべ・しょう●医学博士。慶應義塾大学医学部卒。国立がんセンター疫学部長、東京農業大学教授、国立健康・栄養研究所理事長などを歴任し、公益社団法人生命科学振興会理事長。一般社団法人統合医療学院学院長を兼任。著書に『食事でがんは防げる』『栄養学原論』『新・統合医療学』などがある。政府の各種審議会委員を歴任し、受賞歴も多数。