日本は東京裁判を受諾したのか?

日本は東京裁判を受諾したのか? まだまだある「本当のようなウソ話」

極東国際軍事裁判市ヶ谷法廷大法廷
(出典:写真秘録『東京裁判』、講談社、第1刷)

 

 われわれの周りには、「本当のようなウソ話」というものがある。例の済州島で自分自らが慰安婦狩りをやったとする吉田清治の証言はまさにそれで、一時は多くの人に慰安婦狩りは本当だと信じられた時期があった。

 この吉田清治証言の話が出たついでに、ということではないのだが、朝日新聞が近年鬼の首を取りでもしたかのようにもち出す、「日本はサンフランシスコ講和条約で東京裁判を受諾し、そのことにより国際社会に復帰することとなった」という話も、この「本当のようなウソ話」だということを、今回の番組では論じさせていただいた。

 問題のサンフランシスコ講和条約(11条)の規定は以下の通りだ。

 「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする(以下略)」

 この「裁判を受諾し」の部分を、まず裁判内容も含め受け入れた、と考えるのがこの朝日に代表される解釈だといえる。しかし、これほど一見もっともらしく、しかし完全に間違っている解釈はない。本格的に論じようとすれば、この小文でとても論じきれるような内容ではないのだが、以下便宜的に、代表的な反論の要点のみを示す。

 まず第一は、この条約を締結した日本政府担当者の公的解釈である。それによれば、ここに「裁判を受諾」とあるのは、「裁判の効果というものを受諾する」、つまり「その法律効果というものについては、これは確定のものとして受け入れるという意味」だとしているという事実だ。講和となれば、原則的に戦争裁判の判決は将来に向かって効力を失わざるを得ない。となれば、服役中の戦犯は釈放ということになる。しかし、それでは困るのが連合国側であり、そのために引き続き日本政府にこの効力を認めさせ、刑の執行を委ねなければならず、そのためにかかる確認規定が置かれた、という解釈なのである。要は刑執行の受諾であり、裁判の内容までを受け入れた規定ではない、ということだ。

 第二は、逆にこれが朝日のいうような意味だと考えてみる。そうすると、どういうことになるかということだ。東京裁判の判決の中には、実は朝日だって受け入れられないようなトンデモ認定がある。ならば、朝日はそれをもまた日本は受け入れ、それに対する異論は許されない、というのだろうか。例えば、判決では日本はソ連をもまた侵略した、とされている。しかし、本当にそうなのだろうか。そうだとすれば、北方領土に対する日本の主張は、その正当性をかなり減ずると思われるのだが、朝日はそれを認めるのか。あるいは、東京裁判以外のBC級裁判についてはどうか。これにはひどい冤罪事件も多数含まれるが、その内容もまた日本政府は受け入れ、今日なおこれに縛られるというのか。

 第三は、独立後の重光葵氏や賀屋興宣氏の大臣就任をどう考えるのか、ということである。日本政府が朝日のいうように、東京裁判を受諾し、戦争責任をA級戦犯に負わせる形でけじめをつけた、というのなら、これは明らかな条約無視といわなければならない。少なくとも、連合国が黙っていられる話ではない。「失望」表明どころか、激怒したであろう。なのに、それどころか、重光は日本の国連加盟という晴れの舞台における日本代表として、国連の場に立ってさえいるし、後に勲一等さえ授けられているのである。

 むろん、反論はこれのみに限られないが、これだけを見ても朝日の主張のいい加減さがわかるのではないか。一昔前までは朝日はその名前を出すだけで相手は引き下がった。しかし、もはやそんな時代ではない。朝日はもっと事実を踏まえて論ずべきだ。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈ChannelAJERプレミアムメールマガジン平成27年1月29日付〉