「人を呪わば穴二つ」の歴史認識問題

 「人を呪わば穴二つ」というのとは少々違うが、今回はまさにそれに類する最近の話について書いてみたい。

 まずは最近、新聞などで報道されたことでもあるので、ご存じの方も多いと思うが、米国の話である。米国の人種差別に基づく暴力の歴史に関する新たな調査で、米南部では1877年から1950年までの間に、4000人近い黒人がリンチにより殺されていたことが明らかになった、というものだ(AFP、2月12日)。

  この調査はアラバマ州の人権団体「公正な裁きのイニシアチブ」が行ったもので、同団体の創設者ブライアン・スティーブンソン氏は、「ドイツならばホロコーストの遺産に向き合うことが強いられるが、米国では逆だ。われわれは自分たちで真実と和解に取り組もうとせず、この遺産が引き起こしている結果に真剣に対処しようとしたことがない」と述べたという。以下はそのリンチ殺人の内容の一部。

 「私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る『公開行事』だった。『観衆』はピクニックをし、レモネードやウィスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が『手土産』として配られることもあったという」

 おぞましさに、引用するだけでも気分が悪くなるが、しかしここであえてこんな記事を紹介したのは、こうしたおぞましい過去をもつアメリカ人が、一体どんな顔でわが国の慰安婦問題に対し、「性奴隷」だの、「女性の人権の侵害」だの、といった一方的な批判をすることができるのか、と逆に問うてみたいからだ。最近は米国では、歴史教科書にまで「日本軍は部隊に対し、天皇からの贈り物であるとして、これら女性を提供した」と書き、更には「(彼女らは)逃亡を企てたり、性病にかかったりした場合には、日本の兵士によって殺害された」とまで書いているという。しかし、まさにそれをいうなら、ならばこの黒人殺戮はどうなのか、といいたいわけだ。

 ちなみに、日本の名誉のためにいっておけば、この米国教科書の記述は全て事実無根であるが、この米国の黒人リンチの方は、調査に当たった人権団体が、まさに日本の吉田清治のような詐話師でない限り、事実という他ない、という違いがある。

 もう一つは、ギリシャのチプラス新政権が、この10日、第二次大戦中のナチス・ドイツによるギリシャ占領で同国が被った損害の賠償を請求する方針をドイツに伝達し、内外に波紋を広げているというロイター発のニュースだ。請求額は約1620億ユーロ(約22兆円)。当然のことながら、ドイツはこの請求を「問題は解決済み」と拒否しており、それでなくともギリシャの財政緊縮策をめぐりギクシャクしている両国関係を、この歴史問題が更に複雑化してしまう、と危惧する声が多いという。

 確かにその通りだが、筆者としてここでいいたいのは、「ドイツは過去の問題を克服したが、日本は」などと彼らは専ら「上から目線」でいたが、ようやく彼らにも日本の苦労を理解する機会が与えられた、という話だ。ちなみに、日本はドイツと違いこの種の義務は完全に果たしている。それでもからむ国があるということだ。支援を受けているドイツにからむギリシャもギリシャだが、ここは「お生憎様」という他ない。

 いずれにしても、他国を批判するときには、まず自らを省みていう必要があるということだ。それをしないで、自ら偉そうに「上から目線」ばかり続けていれば、いずれその批判の刃は自分に向かってくる。以上はまさにその典型ではないか。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈ChannelAJERプレミアムメールマガジン平成27年2月27日付〉