テロを賞賛する隣国の伝統

 韓国でリッパート米国大使がテロに見舞われた。最近はテロと言えばイスラム過激派と連想しがちだったが、思い返せば韓国もテロの多発国であった。独立運動や政治変革などの過程でテロ行為が起こることは稀ではない。とはいえ、韓国のケースはやはり異常と言わねばなるまい。

 というのも、教科書ではテロを実行した人物を「義士」つまり民族や国家の英雄だと記述し、政府が勲章を授与し、民間では各「義士」の記念館や銅像が建てられ、記念日に式典が行われるなど、今なお「義士」への顕彰が続いているからである。こんな国は他にあるだろうか。

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 その代表とも言えるのが、満洲のハルピン駅頭で伊藤博文を暗殺した安重根である。日本でも、中韓首脳会談で合意され、ハルピンに安重根記念館が出来たことが話題となっているが、安重根は韓国の教科書では最も大きく取り上げられる「義士」の代表格と言える。

 「義士」と呼ばれるのは安重根だけではない。昭和七年一月、桜田門外で昭和天皇ご乗車の馬車に手榴弾を投げた李奉昌。同年四月、上海の虹口公園で爆弾テロを起こした尹奉吉。この事件では居留民団の会長が死亡したほか、上海派遣軍司令官・白川義則大将、野村吉三郎海軍中将、重光葵在上海公使などが重傷を負った(白川大将はこの傷がもとで翌月亡くなった)。

 そうしたテロ実行犯だけでなく、首謀者の人気も高い。日本ではあまり知られていないが、金九という政治家・運動家がいる。彼は明治二十九年に日本人に対する強盗殺人で死刑判決を受け、減刑されたにもかかわらず脱獄。後に上海に逃げて大韓民国臨時政府の幹部となった。この金九が上海時代に組織したのが「韓人愛国団」で、先に触れた昭和七年の桜田門事件や上海虹口事件を起こしたのがこの「韓人愛国団」のメンバーだった。金九はいわばテロ事件の首謀者と言える。

 彼は終戦時には大韓民国臨時政府の主席であり、テロの首謀者が韓国の初代大統領となる可能性もあった。戦後も肖像が切手になったことがあるし、最近ではお札の肖像にしようとの声もあったほど人気があり、韓国の政治家の間では尊敬する人物の上位に必ず挙げられるという。

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 このように「反日テロ」の実行犯や首謀者が今も堂々と賞賛され続けるのは、異様というだけでなく、現代の政治的価値に反すると言える。テロを讃えることは新たなテロを生むからである。安重根に関するノンフィクションを『Voice』誌に連載していた作家の早坂隆氏は、テロを「義挙」とする姿勢が「誘引する甚大な危険性」を韓国は認めるべきであり、それを認めなければ「『韓国はテロ支援国家』の誹りを免れぬであろう」(同誌今年三月号)と書いたが、今度の米大使襲撃事件ではこの警告が的中したと言える。

 また、こうした反日テロへの英雄視は「反日無罪」の空気をも醸成する。ウィーン条約違反である日本大使館前に建てられた「慰安婦像」、対馬から盗まれた仏像の返還問題、靖国神社放火犯の引き渡し拒否、産経新聞支局長への訴追と出国禁止処分等々、思い当たる節はいくつもある。対日外交でも、慰安婦問題や徴用工訴訟問題など、日韓条約・協定といった国際条約はなかったかのような厚顔ぶりに「反日無罪」の雰囲気を感じざるを得ない。少なくとも、先進国の振る舞いとは言えないだろう。

 安倍政権もそうした空気を感じたのであろうか。最近、外務省がホームページでの韓国の紹介文から、これまで使っていた「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する重要な隣国」という表現から基本的な価値を共有するという部分を削除し、「我が国にとって最も重要な隣国」とだけ表示している。

 文言の変更ではあるが、その意味は誰にでも分かるメッセージと言える。隣国である韓国との関係は、単なる「友好」でなく、また単なる「嫌韓」でもなく、その実像と冷静に向かい合いあうことが大前提であり、安倍政権のこうした対処を評価したい。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成27年4月号〉