教科書は変わったか2015①  「主権」を教えない領土問題

教科書は変わったか2015①  「主権」を教えない領土問題

教科書検定では領土記述の増加、政府見解の掲載が話題となっているが、公民教科書にはまだまだ根本的な欠陥がある。


 戦後七十年が経った今日でも、未だに憲法九条の平和主義に価値を認める世論が根強いが、そうした一種の「空気」を作り上げた原因の一つが、憲法九条を「平和憲法の象徴」として七十年近く教え続けてきた戦後教育にあることは論をまたないだろう。

 この四月、来年度から使用される中学校社会科教科書の検定結果が公表され、竹島や尖閣諸島に関する記述が「大幅増」となり、自衛隊については政府見解が記述されたと報じられている。こうした変化は、去年一月に学習指導要領の解説書が改訂され、また教科書検定基準が一部改訂された結果と言われる。今回の検定に合格した教科書のすべてで竹島・尖閣が記述され、九条と自衛隊の問題では教科書の多くが政府見解を記述することとなり、かつてのように領土問題と言えば北方領土だけ、憲法九条といえば、自衛隊違憲論だけが堂々と記述される状態が解消されたと言えよう。その点は文科省の努力を素直に評価したい。

 しかし、ではこれまで何かと問題視された教科書が一新されたのかというと、まだまだ問題は残されている。むしろテーマ毎に各教科書を比較してみると、教科書全体の構造に、より大きな問題があることが浮かび上がる。例えば、憲法の平和主義を強調しつつ、その一方では世界の憲法では常識とも言える自国を守ることの重要性について何も触れないという、ほとんどの教科書に共通した問題があると言えるからである。

 以下、今回検定合格した公民教科書六点についていくつかの項目をあげ、教科書は何を教えて、何を教えていないのか、を検証してみた。

〈なお、対象としたのは白表紙本に検定で加わった修正後の表記。各教科書の引用にあたっては東京書籍は東書、帝国書院は帝国、教育出版は教出、日本文教出版は日文、育鵬社は育鵬と略している〉

 

 

◆「主権」を教えない領土問題

 先ず、マスコミで話題になっている領土に関わる記述を見てみよう。確かに検定に合格した歴史・地理・公民の教科書二十点のすべてに竹島と尖閣諸島を巡る記述が入った。公民教科書では、ほとんどの教科書が、北方領土・竹島の領土問題、尖閣諸島を巡る問題を政府見解に沿って記述するようになった。歴史教科書でも、日本が正当な手続きのうえで領土に編入したといった歴史的経緯について触れられるようになった。

 これに対して、朝日新聞は「教科書は政府の広報誌であってはならない」「双方の言い分を知らなくては、中韓やロシアとの間で何が解決に必要かを考えるのは難しい」と批判した(四月七日社説)。そもそも中国や韓国の主張に正当性がないことは言うまでもないが、領土を巡る問題を教科書が記述しないことの方が不当である。というのも、中学校の歴史的分野の学習指導要領は「我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」こと、また公民的分野は「国民主権を担う公民として必要な基礎的教養を培う」「自国を愛し、その平和と繁栄を図ることが大切であることを自覚させる」ことを目標としている。領土を巡っても国際的にも認められた日本の正当性を教科書に記述することは、その趣旨に沿ったものと言えるからである。

 むしろ、竹島・尖閣諸島については、これまでの教科書(来年四月まで使用される教科書である)があまりに酷かった事実を忘れてはならないだろう。四年前に検定合格した公民教科書は六社のうち五社が一応北方領土以外の竹島、尖閣についても触れていたが、竹島が不法に占拠されていると記述していたのは三社に止まっていた。また記述はしても「日本海に位置する竹島(島根県)については、日本と韓国の間にその領有をめぐって主張に相違があり、未解決の問題となっています。また、東シナ海に位置する尖閣諸島(沖縄県)については、中国もその領有権を主張しています」と、中・韓の主張にも正当性があるかのように書いた教科書すらあった(教出)。最もシェアの大きい東京書籍の歴史教科書には、竹島・尖閣諸島の記述自体がなかった。その意味で今回の検定合格教科書で領土記述が増えたと言っても、あまりにも酷い従来の教科書が幾分か正常化したという程度に過ぎないと言うべきだろう。

 とは言え、今回の記述も十分とは言えない。領土を巡る問題は日本の主権(領土主権)の問題であり、その正当性を理解させる格好の具体例のはずである。しかし、ほとんどの教科書は領土問題を主権と関連づけて書いていない。むしろ、領土問題は「国と国の利益の対立」だと記述されている例すらある(例えば帝国)。これでは知識は教えたとしても、領土主権の大切さを中学生に理解させることは出来ないと言えよう。少なくとも竹島では領土主権が明確に侵害され、尖閣海域では領海という主権が中国の公船によって侵犯されているという現状を理解させるに足る記述とは言えまい。

 そうした教科書ばかりではないが、「領土は国家主権の大事な要素ですから、こうした事件(引用者註・尖閣領海への中国公船の侵入など)にきちんと対応し、日ごろから備えるとともに、外交的な努力などで相手の国や国際社会に日本の主張を理解してもらうことが必要です」(育鵬)と、主権とそれを守ることの重要性に触れているのは一社しかない。分量が増えたからといって手放しで喜ぶわけにはいかないと言うべきだろう。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成27年5月号「日本と国家を教えない教科書」より抜粋〉

 

【本論文の主な内容】

 ・「主権」を教えない領土問題

 ・自衛権は政府見解なのか

 ・歪められる「平和主義」と教えられない「国防」

 ・「相互尊重」だけを教える国旗・国歌

 ・「異文化理解」は教えても自国文化の尊重は教えない

 ・教科書の執筆姿勢を問うべきだ

〈続きは、『明日への選択』平成27年5月号で読めます〉