教科書は変わったか2015② 自衛権は政府見解なのか

教科書は変わったか2015② 自衛権は政府見解なのか

教科書検定では領土記述の増加、政府見解の掲載が話題となっているが、公民教科書にはまだまだ根本的な欠陥がある。


 

◆自衛権は政府見解なのか

 自衛隊と九条の関係についても、政府見解が併せて書かれるようになったが、根本的な問題が残った。それは自衛権に関わる記述である。自衛権は、憲法九条と自衛隊の関係について触れた記述のなかで登場する。

 「自衛隊と憲法第九条の関係について、政府は、主権国家には自衛権があり、憲法は『自衛のための必要最小限の実力』を持つことは禁止していないと説明しています。一方で、自衛隊は憲法第九条の考え方に反しているのではないかという意見もあります」(東書)

 「歴代の政府は、すべての主権国家には自衛権があり、『自衛のための必要最小限度の実力』を保持することは、第九条で禁じている『戦力』ではない、という見解にたっています。一方で、国民の中には、自衛隊のもつ装備が『自衛のための最小限度の実力』を超えるものだとして、自衛隊は憲法に違反するという主張もあります」(教出)

 確かに政府見解が書かれてはいる。しかし、「主権国家には自衛権がある」ことは国際法上の自明の事実であるにもかかわらず、これらの記述をそのまま読めば、あたかも日本政府の見解でしかないかのような書き方となっている。六社中五社がこれと同様の記述をしている。

 もっとも、自衛隊の存在がごく一部を除いて多くの国民に定着している現在、教科書に自衛隊違憲論を記述すること自体、恣意的な記述だと言えるが、そうした記述の問題だけではない構造的問題を指摘したい。

 というのも、自衛権を政府見解でしかないように書く一方、ほとんどの教科書は日本は主権国家であり、日本には固有の自衛権があるとは明記していない。これでは政府見解の正確な理解もできないし、九条と自衛隊の関係を歪めてしまうことともなる。少なくとも、「自国を愛し、その平和と繁栄を図ることが大切であることを自覚させる」ことも、「公民として必要な基礎的教養」を持たせることも出来ないと言えよう。

 こうした欠陥は、次の記述と比較すればより明瞭となる。

 「主権国家には国際法上、自衛権があるとされ、世界各国は相応の自衛力をもっています。日本政府も、日本国憲法前文に『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』と記した国際政治の理想と、現実の国際政治が異なっていることから、防衛態勢の整備と強化など、現実的な対応をしてきました。自衛隊は日本の防衛には不可欠であり、また災害時の救助活動などでも国民から大きく期待されるとともに信頼されています」(育鵬)

 要するに、ほとんどの教科書は主権や自衛権に触れはするものの、それが世界各国同様にわが国に備わった固有の自衛権であることを記述せず、その大切さを語ることもない。

 こう見てくると、多くの教科書は、領土を巡っては主権を、憲法では自衛権を教えることをあえて避けようとしてしていると言うべきだろう。主権や自衛権の前提となるのは「国家」である。その「国家」を理解させようとする視点がすっぽり欠落していると指摘せざるを得ない。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成27年5月号「日本と国家を教えない教科書」より抜粋〉

 

【本論文の主な内容】

 ・「主権」を教えない領土問題

 ・自衛権は政府見解なのか

 ・歪められる「平和主義」と教えられない「国防」

 ・「相互尊重」だけを教える国旗・国歌

 ・「異文化理解」は教えても自国文化の尊重は教えない

 ・教科書の執筆姿勢を問うべきだ

〈続きは、『明日への選択』平成27年5月号で読めます〉