歴史戦の基本は「カイロ・ポツダム体制」の克服にあり

 かつてわが国の戦後体制を「ヤルタ・ポツダム体制」と呼んだ時代があった。なぜか最近は耳にしないが、このところの中韓からの「歴史戦」を見つつ、むしろ筆者の頭に浮かぶのは「カイロ・ポツダム体制」という言葉である。

 むろん、これはあくまでも筆者の造語にすぎない。しかし、中韓の狙いの中にあるのは要するにこれで、永久にこのカイロ宣言・ポツダム宣言の枠組みの中に日本を封じ込めておくのが彼らの戦略なのではないか、ということだ。

 念のために触れておくと、カイロ宣言では「三大同盟国(米英華)は日本国の侵略を制止し且これを罰する為今次の戦争を為しつつあるものなり」とされ、「満洲、台湾及び澎湖島」は「盗取」したものとされ、「朝鮮の人民」は「奴隷状態」に置かれている、とされている。バカげた決めつけではあるが、彼らが今日なお振り回す認識の枠組みが全てここには揃っている、というのが筆者の認識だ。

 ポツダム宣言ではこのカイロ宣言の条項は「履行せらるべく」とあり、追認された形になっている。と同時に、「日本国国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及び勢力は永久に除去せられざるべからず」とあり、日本が何と「世界征服」をめざしたかのごとき荒唐無稽な断定もまた行われている。

  当然のことながら、これは正式な講和条約が結ばれ、戦争状態が終結せしめられるまでの連合国の暫定的見解にすぎず、今日も日本を縛るものではない。しかし、そうであってはならじと、「戦後国際秩序」の基本はここにあり、この枠組みに日本は永久に縛られるべき、と宣伝これ努めているのが中韓の「歴史戦」なのである。

 ついでに述べておけば、正式な講和条約たるサンフランシスコ条約では、「同盟国及び日本国は、両者の関係が……主権を有する対等のものとして友好的な連携の下に協力する国家の間の関係でなければならないことを決意し」とあり、もはや日本を「悪」とする枠組みはきれいさっぱり清算されている。面白いのは、当時周恩来がこれに反対し、カイロ宣言、ヤルタ協定が講和条約の基礎たるべきなのに、そうはなっていない、と強硬に抗議していることだ。つまり、カイロ宣言はこの条約では全く無視され、それを周恩来は批判している、ということなのだ。

 その時の遺恨が今日なお継承されているのかどうかは知らないが、ここにきて再び中国がこの二つの宣言に着眼し始めているという事実は興味を引く。繰り返しいうように、これを最大限に活用することが「歴史戦」の肝だと彼らは考えているということだろう。

 昨年夏、抗日戦争記念日に合わせ、中国では「カイロ宣言」と題する映画が公開されたが、そのポスターや宣伝に、カイロ会談に出席していない毛沢東がさも主役のように登場しており、これは歴史改竄だと中国でも批判する声が上がっているとの報道があった。宣言は使いたし、ただ主役が蒋介石では、という話でもあろう。

 しかし、こんな嘘を嘘とも思わないのが彼らの流儀でもある。そういえば、共産党が全中国人民を率い抗日戦争に勝利した、というのが彼らの歴史であるし、ついでにいえば韓国も、当時上海にあった「大韓民国臨時政府」の「抗日闘争」を引き継ぎ独立した、というのが彼らの憲法にある歴史認識でもある。また、北朝鮮は金日成がソ連と共同作戦を成功裏に行い祖国に凱旋した、というのが建国神話となっている。要はいかに「侵略国日本」と勇敢に戦い勝利したか、という嘘が国家的物語となっているということだ。

 この嘘のベースにあるのが、カイロ宣言とポツダム宣言の認識であろう。かかる嘘との戦いが「歴史戦」の基本だと筆者は思う。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成28年1月号〉