戦後ドイツはなぜ緊急事態条項を持ったのか

戦後ドイツはなぜ緊急事態条項を持ったのか

憲法の緊急事態条項は「独裁」につながる? そんな反対論を唱える輩には、ヒトラー独裁という「苦い歴史」を教訓としたドイツ基本法が、なぜ緊急事態規定を持ったのか、是非答えてもらいたいものだ。


 

◆緊急事態条項は「独裁」につながる?

 安倍首相は、去る十一月十一日の参議院予算委員会において、憲法に緊急事態対処条項を設けることは「きわめて重く、大切な課題」だと答弁した。巨大災害や外国からの武力攻撃、またこの答弁の三日後にパリで起こったような同時多発テロなどに対処するためには、そうした緊急事態に対処する憲法規定が必要だと、つとに指摘されてきた。自民党が四年前にまとめた憲法改正草案にも緊急事態宣言などの条項が設けられている。国会においても、緊急事態対処は改正論議の重要な論点だという認識で共産党を除く与野党が一致している。その意味で、現段階では緊急事態条項新設は国会の改憲案発議のなかでは最も現実性をもった論点であり、安倍首相の答弁も当然のものと言えよう。

 ところが、緊急事態対処条項など必要ない、むしろ危険だと反対する人たちがいる。朝日新聞は首相答弁の二日後の「天声人語」で、緊急事態に際して「首相に権力を集中させる。国民の権利を制限し、命令に従わせる。憲法秩序の核である三権分立と人権保障の、いわば一時停止である」。この権力集中と私権制限が問題であり、「全権を握った指導者は、往々、いつまでもそれを手放さない。ドイツのヒトラー独裁が典型だ。秩序を守るための対処だったはずの一時停止が、永続して、ついにはその秩序を破壊してしまう」と書いた。

 朝日は、昨年四月に憲法審査会が論議を再開した際にも、社説でこんな反対論を展開していた。「緊急事態条項は、憲法に基づく法秩序を一時的にせよ停止するものだ。戦前のドイツでワイマール憲法のもと大統領緊急令が乱発され、ヒトラー独裁に道を開いた苦い歴史もある」と。要するに、緊急事態への対処として行われる権限の集中、私権の制限は「独裁」につながる。その典型が「ヒトラー独裁」だというのである。

 同様の主張は各地の弁護士会が自民党改憲草案に対する批判の中でも展開しているし、昨年秋、朝日新聞や東京新聞に弁護士グループが掲載した意見広告では、「ナチス・ヒトラーは、『緊急事態宣言』を使って、独裁国家を創った」、「(自民党憲法改正草案の緊急事態宣言条項は)九条改正とは比べものにならない程、怖い」とまで書かれていた。

 いずれも憲法に緊急事態条項を持てば独裁につながるというのだが、果たして緊急事態条項は独裁につながるような、そんな危険なものなのか、また憲法に緊急事態条項があったためにヒトラーの独裁が生まれたのか。今後、緊急事態条項の新設にスポットライトが当たれば、こうした反対論が一層声高に叫ばれることが想定される。そこで簡単ではあるが検証・反論を試みておきたい。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

【本稿の主な内容】

 ・緊急事態条項は「独裁」につながる?

 ・緊急事態条項は世界の常識

 ・「苦い歴史」を教訓としたドイツ基本法の現実

 ・ワイマール憲法の緊急事態条項

 ・「ヒトラー独裁」はなぜ生まれたか

 ・「教訓」から生まれた緊急事態条項

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