「糖質オフ」が稲作を亡ぼす?

「糖質オフ」が稲作を亡ぼす?

新たな「米食相対化論」に要注意

 

 ここ何年か、異業種交流関係の会食の際、シメに「ごはんどうしますか?」と聞くと、「いや、糖質オフだから自分は結構です」と言われるケースが何遍もあった。最初はそんなに気にしていなかったのだが、出席者が毎回違うのに同じように言う人が続いたので「何かおかしい」と感ずるようになった。調べてみると、「糖質オフ」はいまや健康志向の代名詞らしく、「ごはんを食べる=太る=健康に悪い」と漠然と思い込んでいる人が多いようである。

 昭和30年代には「コメを食べるとバカになる」との論がまことしやかに流布され、それがパン食志向に拍車をかけたが、「糖質オフ」は新たな「米食相対化論」ではないか、と筆者は心配しながら観察を続けている。

 

◆炭水化物=糖質+食物繊維

 さて、「糖質オフ」=健康志向というが、医学博士の松生恒夫氏によると、むしろ最近の糖質オフダイエット(炭水化物抜きダイエット)が原因で、便秘などの「腸ストレス」に悩む人が増えているという。そもそも炭水化物や糖質とはどんなものなのか実態が正しく伝わっていないとして、松生氏はその定義を紹介している(『「炭水化物」を抜くと腸はダメになる』)。

《『糖尿病食事療法のための食品交換表第7版:日本糖尿病協会2013年』によると、炭水化物、糖質、食物繊維の関係は、図表1―1(左)のようになります。炭水化物とは、消化・吸収される糖質と消化されない食物繊維を合わせた総称ということです。》

 ところが、今は糖質ばかりが注目されている。糖質とは、糖類や人工甘味料、オリゴ糖など三糖類以上の糖類を含む総称。いま日本人に増えている糖尿病の原因である血糖値上昇に関わるのはまさにこの糖質で、それがゆえに「糖質オフ=健康」という空気があるわけだが、もう一つ大事な食物繊維が完全に忘れ去られているところに問題がある。

《炭水化物のもう一方である食物繊維は、逆に、血糖値上昇を抑える働きがあります。さらに、食物繊維は便通の改善作用が認められるうえ、食物繊維の中でも水溶性食物繊維はコレステロールを低下させる作用もあることがわかっています。》

その上で、松尾氏は言う。

《つまり、糖質オフダイエットをおこなうと、たいていは炭水化物抜きダイエットをおこなうことになり、食物繊維摂取量が減少して排便障害を起こすなどの『腸ストレス』をまねいたり、コレステロールの過剰吸収からメタボになってしまう恐れがあるのです。》

 

◆「ごはんを食べる=太る」は思い込み

 では、「ごはんを食べる=太る」は本当なのか。それは単なる思い込みであるということをライターの村山真由美氏が、女子栄養大学の上西一弘教授に取材して簡潔に整理している(日本経済新聞2015・5・23)。

《穀類やいも類などに多いデンプンには、消化吸収されずに小腸を通過し、食物繊維と同様の働きをする「レジスタントスターチ」が含まれるので、さらに消化吸収がゆっくりになる。穀類やいも類が腹持ちがいいのもこのためだ。
 「『ごはんを食べると太る』というのは思い込み。むしろ、主食を変に制限することで、太りやすくなっている人が多いようだ」(上西氏)。例えば、主食の量を控えると甘いおやつが我慢できなくなったり、脂質やたんぱく質を多くとらないと満足できなかったりして、かえって太りやすくなってしまう。
 主食は極端に制限するよりも、毎食適量を食べ、おやつを押えるほうがダイエットには効果的だという。》

 このように、「糖質オフ」でごはんを控えるのは話が逆なのだ。

 

◆毎日ごはんをもう一杯

 ただ、冒頭に書いたように「糖質オフ」を理由にごはんを食べることがなんとなく敬遠される最近の傾向は、米の消費量の減少に拍車がかかりやしないかと心配している。

 ただでさえ、日本人の年間米消費量はピーク時の114・9㎏から56・3㎏(平成24年)と半分以下に減っている。日本人の食料基盤であると同時に、国土保全上極めて重要な役割を果たしている水田を維持・再生するには根本的には農業政策の問題になるが、われわれ消費者ができることとして「毎日ごはんをもう一杯食べよう」と本誌は呼び掛けてきた。

 「糖質オフ」に惑わされることなく、改めてごはんの良さに着目し、ごはんを主食とする和食を大切にしたい。

〈『明日への選択』平成27年7月号〉