飼料米増産に本格攻勢をかけよ

飼料米増産に本格攻勢をかけよ

〈『明日への選択』平成26年4月号掲載〉

 

 前号では、減反政策の見直しと飼料米増産の二本柱からなる政府・自民党の「水田農業政策改革」を紹介するとともに、飼料米増産を奨励するための補助金投入に対して、マスコミが疑問視することのおかしさを指摘した。

 なぜそのような指摘をしたかといえば、いま日本の農業を考える上で最も大切なのは、その四割が使われずにいる「水田の維持・蘇生」であるからだ。水田は日本人の主食である米の生産基盤であるとともに、国土・地域共同体・景観・伝統文化などを含めた「農」の多面的機能を担っている。主食用米の消費量の更なる減少が予想される今、水田を維持・蘇生するには飼料米生産が最も望ましい。家畜が食べるエサを輸入トウモロコシから飼料米にシフトすれば、わが国の食料自給率・自給力を向上させるとともに、「農」の多面的機能が維持されるからだ。

 飼料米の生産量は現在一八万㌧。農林水産省は四五三万㌧の需要があると試算し、今後、戸別所得補償制度の廃止で浮いた補助金を投入して増産に乗り出す方針だ。

 とはいうものの、飼料米増産には乗り越えねばならない課題が多い。以下、専門家の指摘に基づき、その課題とは何かを見ておきたい。

 

◆飼料米増産の課題

 第一に、飼料米は輸入トウモロコシに代替することを期待されているわけだが、これには価格差を縮小し、栄養価を高める必要がある。

 第二に、そのためには高単収・高タンパク質の飼料米専用種の開発と普及が必要だが、現状では飼料米の種子からして不足している。

 第三に、販売先が十分に確保されていない。「飼料用米供給量52万トンのうち、47万トンが配合飼料メーカーに供給され、畜産農家に直接供給しているのは9万トン程度にとどまる」(週刊農林)。

 第四に、インフラの不足である。例えば、配合飼料工場からして不足している。

 「現実的な問題として配合飼料工場が全国118工場あるものの、太平洋ベルト地帯に集中しており、多くの県で飼料工場が不在なのである。これは飼料輸入を想定して設置されたため、沿岸の太平洋ベルト地帯に集中しているのである」(同)

 おまけに、集荷・流通・保管施設などの流通インフラも不足しており、増産したとしても、短期で大量の受け入れは難しいという。

 第五に、飼料米にシフトすることは米国の生産者の売り先を奪うことになる。鈴木宣弘東京大学教授は言う。

 「米国からの飼料用とうもろこし輸入が1000万㌧だから、米国からの圧力も受けながら、それをコメで半分も置き換えられるだろうか」

 飼料米増産がいかに望ましいとはいっても、実際はそう単純な話ではないのだ。

 

◆短期的施策では失敗する

 ただ、こうした課題を抱えながらも、これまでは補助金の投入が奏功し、作付面積は二〇〇八年度の一四一〇㌶から、二〇一二年度には三万四五二五㌶へと拡大した。

 では、飼料米への補助金を手厚くした今回の政府方針で増産への弾みがつくかというと、そうでもないらしい。谷口信和東京農業大学教授によると、飼料米の単収はまだまだ低いため、今回程度の上積みでは採算割れする農家が多数出てくる恐れがあるという。そのため谷口教授は補助金の制度設計を見直し、実効性が上がるよう提言している(「飼料用米振興の論理」)。

 しかし、最も重要なのは、飼料米生産に腰を据え戦略的に取り組めるかどうかだ。

 例えば、大震災の影響などにより、農水省は二〇一二年末以降、農家に対して、飼料米生産よりも備蓄米生産への転換を促した失敗例もあるという。谷口教授は言う。

 「一歩ずつ着実に前進させて行かねばならない飼料用米の作付拡大に対して、農水省は備蓄米や加工用米の短期的な需給事情を重視して、大量の冷水を浴びせたことが明らかである。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるといわざるをえない飼料用米政策である」

 二、三年程度の短期間で方針が変わってしまう習い性から、日本の農政は「猫の目」行政と揶揄されるが、水田の四割が使われない状態の今、もはやそれは許されない。

 「攻めの農業」といえば、先ず頭に浮かぶのは「大規模化」や「農協改革」であるが、「水田を維持・蘇生する」という大目標に向かって難題を抱える飼料米生産に本格攻勢をかけることこそ、「攻めの農業」の本丸であってほしい。

〈『明日への選択』平成26年4月号〉