地方創生・聞き書き連載  「ご当地」が地方を救う  「地域の宝」を掘り起こせ

地方創生・聞き書き連載

「ご当地」が地方を救う

「地域の宝」を掘り起こせ

田村秀(新潟大学法学部教授)

〈『明日への選択』平成27年5月号掲載〉

 

「地方創生」が国家的に推進される中、「まちづくり」の在り方が問われている。かつての「ふるさと創生」では結果的にハコモノばかりができるという失敗に終わったが、人口減少・自治体消滅の危機に直面する今、そのような失敗を繰り返すわけにはいかない。一方、現在進められている地方創生では、ユニークなアイデアで成功している自治体も出てきている。他方、そうしたアイデアや人材に乏しく取り組みが進んでいない自治体も少なくないと聞く。

 そこで、地方自治・行政学の専門家で、「食」や「ご当地もの」を活かしたまちづくりに詳しい田村秀新潟大学教授に、地方創生の前提となるべき考え方や「食によるまちづくり」の事例、「ご当地」にこだわる日本人の特性などを聞いた。

 

◆ハコモノ行政の教訓

■田村教授は元自治官僚で『自治体格差が国を亡ぼす』『改革派首長はなにを改革したのか』など地方自治・行政の在り方を正面から論じた著作を世に問う一方、『B級グルメが地方を救う』『「ご当地もの」と日本人』など、身近でユニークな題材を切り口に、地域活性化にエールを送る著作を発表している。なぜそのようなユニークな視点を持つようになったのか、その経緯から聞いてみた。

 田村 私はもともと旧自治省に勤務していて、いわゆるハコモノ作りの仕事に携わっていました。

 ちょうど平成の初め頃のことです。当時はリゾート構想真っ盛りで、全国各地にテーマパークが乱立した時代であり、竹下内閣の「ふるさと創生一億円事業」をきっかけとして地方自治体が競って文化会館や観光施設の建設を進めていた時代でもありました。

 その頃、私は自治省地方債課の係長として、まさにハコモノづくりのためのヒアリングを連日行っていました。「こんなとってつけたようなものばかり作って、外からどれだけの人が来るのだろうか」と内心では思いながらも何千件とヒアリングを行っていた……。ただ、バブル経済の「イケイケの時代」でしたから、ほとんどの事業は大したチェックを受けることもなく認められ、各地にハコモノが作られて行きました。

 そうしたハコモノを作って、なかにはうまく行ったところもありました。しかし、十分活用されていないところが多かった。特に都会の人の目から見たら「税金の無駄遣い」と見られても仕方がないものが多数できました。象徴的なのはテーマパークです。あちこちでいろいろなテーマパークができたものの、今生き残っているのはディズニーランドやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)などごく僅かしかないでしょう。この新潟にも、トルコ村やロシア村がありましたが、いまや見る影もありません。

 その後、自治省の仕事で国内と海外のいろいろな土地を訪れたり、大学に転身してからは公務員研修の講師として全国各地を訪れる中で、その土地その土地にある歴史的なもの、文化的なもの、あるいは建物や風景、郷土食など、いろいろと面白いものに触れた。そうした中で、「結局、地域に根差していないものはダメなんだな。地域に根差したものをもっと大事にしなければならない」と気付いたのです。地域に根差したものとは今言った歴史、文化、建物、風景、郷土食などいろいろありますが、要するにその地域に元々ある地域資源、いわば「地域の宝」です。

 この「地域の宝」を見出し、活かしてゆくことが今日のまちづくりの基本になければならない。そうでなければ、どれだけ「地域振興」「地方創生」といった旗印を掲げ、予算を投入したとしても、結局は看板倒れに終わってしまうのではないか。そんな問題意識から、「食」や「ご当地もの」がまちづくりに役立つのではないかと思って注目しているわけですね。

 

◆意外に気付いていない「地域の宝」

 田村 ところが、地域に元々ある資源というのは、地元の人は意外に「宝」だとは思っていない。当たり前だと思っているのです。

 この新潟だってそうですよ。私は外から来たから気付いたのかもしれませんが、新潟ではこの町中でも、ちょっと高いところに登ると、天気がよければ、山がものすごくきれいに見えます。佐渡島だって見えるんです。でも、そのことを地元の人に話すと、みんな「えっ?」という反応を示します(笑い)。

 特に地元の人が一番気付いていなかったのは、上越新幹線からの景色です。東京から新潟行きに乗って、浦佐駅周辺まで来ると、越後三山や巻機山が眼前に広がり、それはもう圧巻の眺めですよ。さらに、もう少し走って燕三条駅の近くにさしかかると、左側には弥彦山が見え、やがてその弥彦山の後ろから佐渡島が見えてきます。この景色も本当に素晴らしい。ところが、地元の人は誰もそのことに気付いていない。今から六、七年前になるでしょうか、私は百人ぐらいに「上越新幹線に乗ると、弥彦山の後ろに佐渡島がきれいに見えますね」と話してみたんですが、それに気付いている人は誰一人いなくて、本当に驚きました。

 これは非常にもったいないことだと思うのです。私はこれまでに六十近い国を訪問しましたけれども、海外に行ったときに何が一番魅力を感じるかというと、風景と食です。日常とは異なるよその土地へ行けば、人はその土地の美しい景色を見たいし、地元の人がおいしいと言っているものを食べたくなります。それをまちおこしの要素として取り込まない手はない。なぜなら、まちづくりというのは結局、交流人口の増加、つまり、いかにして地域の外から人に来てもらうかが重要な要素になるからです。なかでも私が注目してきたのが……続きはこちら

〈『明日への選択』平成27年5月号掲載〉