「食糧争奪戦」の中で捕鯨再開を考える①

「食糧争奪戦」の中で捕鯨再開を考える①

〈『明日への選択』平成27年9月号掲載〉

 

◆激しさ増す食糧争奪戦

 少し前にNHKスペシャル「世界〝牛肉〟争奪戦 」(3月14日放映)を見た。中国の爆食によって世界の牛肉需要が増え、日本の商社が買い負けたり、世界の穀物需給、環境・生態系などに大きな影響を与えている実態が紹介されており、改めて日本の長期的な食糧戦略を考えないわけにはいかなかった。

 むろん、食糧の確保が長期的に厳しくなるであろうことは以前から指摘されてきた。その大きな要因は人口増加で、国連の予測では世界人口は二十世紀末に六十億だったのが、二〇五〇年には九十七億に達するという。それだけの人口を養うだけの食糧が作れるのかという話だ。

 食糧は太陽の光と土地と水があれば生産可能だが、それは無限ではない。従来は農地拡大や技術革新により生産を拡大して賄ってきたけれども、行き過ぎた開発は環境破壊を引き起こし、最近の水不足や異常気象の要因とも言われる。こうしたことから、更なる生産拡大は厳しいとの指摘も少なくない。

 しかも、限りあるパイの中で中国の需要が拡大を続けると、日本の食糧輸入も影響を受けざるを得ない。資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏によると、中国は家畜のエサとなる大豆やトウモロコシをわが国に数倍する厖大な量を輸入している。その皺寄せで日本の畜産は大きな影響を受け、「このままでは牛肉の値段も高騰して、めったに食べられなくなる」という。

 

◆捕鯨が世界を救う

 牛に限らず豚や鶏も輸入穀物をエサとするので、結局、日本人は肉類を日常的に口にできなくなる可能性があるわけだが、じつはこの問題についてわが国は既に解決方法を有している。答えは捕鯨だ。

 かつて反捕鯨国が「鯨は絶滅の危機にある」と宣伝した結果、一九八二年に国際捕鯨委員会(IWC)で「商業捕鯨の一時停止」が採択されたが、IWCの科学委員会によると、現在、ミンク鯨は南極海だけで五十二万頭以上、マッコウ鯨は世界に二百万頭いることが判明しており、鯨は食用資源として有望である。

 また中国の爆食、伝染病による畜産の限界、自然環境との調和等を考えても、捕鯨は有益である。国際捕鯨交渉の日本代表を長らく務めた小松正之氏はこう述べている(本誌平成二十三年四月号)。

 「最近は、BSE、鳥インフルエンザ、口蹄疫など畜産物に関わる伝染病が次々と発生していますが、いくら封じ込めてもなくならないのは、畜肉の大量生産というやり方に限界がきていると思えてなりません。また、牛肉や豚肉を一キロ作るためには大量の穀物と大量の水が必要で、膨大な量の糞尿も処理しなければならない。そのため地下水の枯渇や土壌の劣化が問題となっています。畜産物による環境負荷は大変なものがあるのです。それに対して、鯨は一グラムの穀物も一滴の地下水を与えなくても勝手に育つ。糞尿も自然のサイクルの中で処理されます。……自然と調和しながら人類が食糧を確保して行くためには、畜産の割合を相対的に減らし、代わりに鯨を適当に間引いて食糧資源として利用していくことが望ましい方向でしょう」

 

◆朽ち果て行く日本の捕鯨

 ところが、このような賢明な道があるにもかかわらず、現在のわが国はそれを実現できる体制にない。

 じつは「商業捕鯨の一時停止」以後も、わが国は捕鯨の火を消さないよう腐心してきた。特に国際捕鯨取締条約に基づき正当に実施してきた調査捕鯨は、鯨類資源、海洋、生態系などに関する貴重な情報を蓄積した他に類例を見ない科学的調査で、国際社会から極めて高く評価されてきた。しかし、十年ほど前から捕鯨への取組は形骸化し、今はただ朽ち果てるに任せるような状態だ。前出の小松氏がこのほど上梓した『国際裁判で敗訴! 日本の捕鯨外交』(マガジンランド)を読むと、そのことがよく分かる。

 昨年三月、国際司法裁判所が日本の調査捕鯨を差し止める判決を下したが、この裁判は二〇一〇年に豪州が南極海における日本の調査捕鯨は事実上の商業捕鯨であり、国際捕鯨取締条約に違反しているとして日本を提訴したところから始まった。同書はこの裁判の経緯と判決内容を詳細に検証したもので、今後の捕鯨、また外交の在り方を考える上でも貴重な提言である。

 詳細は稿を改めて紹介するが、小松氏によると、国際司法裁判所の判決は論理に飛躍が多い「不当判決」だ。しかし、より深刻なのは、この裁判に臨んだ当局(水産庁)の姿勢が「オウンゴール」と言うしかないほど杜撰だったことである。(つづく)

〈『明日への選択』平成27年9月号掲載〉