野党は具体性ある反論をすべきだ

 伊勢志摩サミットは見事な成功であった。テレビの映像を通して見る安倍首相の堂々たる議長ぶりは、今や安倍首相こそが世界の中心的政治家だという印象を与えるものだった。

 むろん、表面的な印象に留まらない。安倍首相は終始サミットの議論を議長としてリードし、共通のコンセンサスへと導いた。世界経済の問題はもちろん、とりわけ欧州の首脳には関心の薄かった中国の海洋進出の問題についても、これまでにない言辞を引き出した。日経の秋田浩之氏は次のように解説する。

 「『海洋の国際ルールへの違反者には、厳しくのぞむべきだ。強いメッセージを発したい』。議長の安倍氏がこう提案すると、異論が出るどころか、中国にどう国際ルールを守らせるか、熱弁を振るう首脳が相次いだという。欧州側からは、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても『加盟してみたものの、全然うまくいっていない』との不満がもれた」

 この記事によれば、仏のルドリアン国防相はその後これを受け、EU各国が南シナ海に海軍艦船を定期派遣し、そろって警戒にあたるよう呼びかけると同時に、英国もまたアジアへの軍事関与を探り、今秋には初めて戦闘機を日本に送り、自衛隊と共同訓練することになった、とある。安倍首相の粘り強い一貫した働きかけの成果であろう。

 一方、この安倍首相のリーダーシップに対し、それを全て否定しようとするのが民進党を始めとする野党各党だ。それどころか、彼らは今回の参院選一人区では全面共闘に踏み込み、安全保障関連法の廃止や憲法改正阻止を訴えている。何をいおうと、いうこと自体は自由だが、ただどうしても気になってならないのは、彼らの口から中国の脅威に対する認識と、それに対する日本の対応への説得力ある方針が全く聞こえてこないことだ。安保条約を廃棄し、自衛隊をいずれは解消するとする共産党が一緒である以上、それは当然のことかもしれないが、しかしこれで安倍政権を打倒するのだといわれても、ならば安全保障はどうするのだ、と逆に問い返す他ない。

 先日は中国の軍艦が尖閣諸島周辺の接続水域に初めて入るとともに、更にその一週間後には鹿児島県沖の領海を通過した。「ついに来たか」というのが率直な感想だが、要は日本や米国の動きを観察しながら、じわじわと日本との間合いを詰めているということだろう。少しでも日本が力を緩めたり、日米間に隙間が生まれたら、その時は間髪を容れずに行動に出、既成事実を作るということなのだ。

 この時に当たり、にもかかわらず安保関連法廃止が彼らの第一の主張だという。立憲主義の回復という言葉もあるが、それをいうならまず安倍首相にではなく、中国に法を尊重せよ、というべきではないか。というのも、彼らは口を開けば「話し合いで」というが、しかし仲裁裁判所の判断に対してさえ、「断じて受け容れない」と話し合いを拒否しているのが中国なのである。その中国とどう話し合えというのか。それに、中国は少しでもこちらが構えを緩めれば、その分こちらに踏み込んでくるのである。

 憲法九条一項には「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」とある。これは一切の備えを捨て、ただ「長いモノには巻かれろ」という意味ではない。単なる平和ではなく「正義と秩序を基調とする国際平和」を真摯に希求するという話である。そのためには、日本は何をすべきと考えるのか。

 安倍首相はそれを「国際協調」という枠組みを通してやろうとしている。それを立憲主義の否定であり、暴走政治だと、ただ煽り立てるだけなのが野党の情けない姿でもある。無責任なプロパガンダは止め、もっと具体性ある反論を展開すべきではないか。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成28年7月号〉