「ならず者大国」中国

 相手が弱いと見ると、徹底して法など無視する一方、自己の不法を正当化するためであれば法を使う。真っ当な社会でこんなことをすれば周りからは総スカンをくい、警察に捕まるところだが、国際社会にはそんな身勝手を堂々とやってのける大国がある。しかし、日本のメディアはその不法を正面から取り上げない。

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 六月九日、中国のフリゲート艦が尖閣諸島の接続水域に侵入した。接続水域とは領海のように主権行使はできないが、国際法によって領海のすぐ外側十二海里に設定されている、沿岸国の法律が適用される水域である。このケースは海自の護衛艦が対応し領海に入ることはなかったが、尖閣周辺でははじめての海軍艦艇による接続水域への侵入だった。続いて十五日、今度は鹿児島県口之永良部島と屋久島の間(トカラ海峡)で中国海軍の情報収集艦が領海を侵犯した。

 日本側の抗議に対して、中国側は国連海洋法条約を持ち出し、尖閣のケースは「無害通航」であり、トカラのケースは「国際海峡航行」だと反論した。

 国連海洋法条約は、他国の領海であっても外国軍艦が事前の許可なしに通行できる「無害通航権」を認めているが、そこには沿岸国の安全に影響を及ぼさないことを前提に十二項目にわたる条件を付けている。むろん軍艦による情報収集は「無害通航」に当たらない。

 また、不当に尖閣諸島の領有権を主張する中国の軍艦が尖閣周辺海域に侵入することは、軍事的緊張を高めるだけでなく、わが国の正当な領土保全を害する行為であり、とても「無害航行」とは言えない。さらに言えば、トカラ海峡は国際海峡ではなく、国際法が定めた「国際海峡の航行」にも当たらない。国際法を持ち出して自己の不法を正当化しているだけだ。

 それだけではない。中国は一九九二年に制定した領海法で、外国軍艦の「航行」は中国政府の事前許可を必要とすると規定している。国際法でいう事前許可なしの「無害通航権」を認めていない。自国領海での他国軍艦の行動に対しては海洋法条約上の権利を認めない一方、他国領海での中国軍艦の行動には海洋法条約を持ち出して、その不法を国際法が認めた権利だと主張する――これは「ならず者」のすることである。

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 一方、相手に軍事力がないと見ると、国際法など無視してかかるのが中国である。いま問題になっている南シナ海では、その八割に当たる海域に勝手に線引き(「九段線」という)して「中国の海」だと主張し、スプラトリー諸島では岩礁を埋め立てて領海と排他的経済水域(EEZ)を主張する。さらには軍事基地も建設している。
しかし、陸地を基線として領海を設定するのが海洋法条約の原則であり、海域に勝手に線引きすることは認められていない。また、高潮時に水面下に沈む岩礁には、たとえその上に人工物を作ったとしても領海は設定できない。

 そうした不法に対してフィリピンやベトナムは抵抗しているが、いかんせん軍事力の差は覆いがたい。そこで、フィリピンは二〇一三年一月、中国の言う九段線に根拠がないことや人工島は領海やEEZを構成しないことを確認すべく仲裁裁判所に提訴した。これは海洋法条約が定める手続きに則った正当な提訴だが、中国はこの裁判に応じず、仲裁裁判所の判断も受け入れないと表明し、逆にフィリピンに対して提訴取り下げの圧力さえ加えている。

 中国の行為はまさに国際秩序に対して力をもって挑戦し、平和の前提となる国際秩序を壊す行為に他ならない。北朝鮮が「ならず者国家」ならば、中国は「ならず者大国」と言うべきであろう。こうした中国認識を抜きにしては、わが国の安全保障論議も憲法改正論議も机上の空論に終わってしまう。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)

〈『明日への選択』平成28年7月号〉