「いまここにある危機」を見つめ、議論を盛り上げよ

 衆参両院で三分の二が確保されたにもかかわらず、憲法改正を中心になって推進すべき自民党議員たちの中に盛り上がりが見えてこないのはどうしたことか、といった指摘を度々受ける。確かにその通りで、果たしてこんな雰囲気の中で憲法改正などできるのか、との疑問を筆者もまた抱く。

 むろん、これに対しては、今後の憲法審査会での議論を考えるならば、今は自民党が一方的に突出しない方がむしろよいのではないか、といってくる関係者もいるかもしれない。自民党が熱く積極的になればなるほど、他党は引いてしまう、というのだ。

 わからないではないが、しかしやはり憲法改正にはまず徹底した議論が必要なのではなかろうか。そうでなければ、そもそも国民の理解は深まらず、それでは発議がなったとしても国民投票の勝利は覚束ないからだ。改正項目の絞り込みには確かに譲歩・妥協が求められる。とはいえ、その前にまず国民にもわかる形で憲法に対する基本の考え方が示されなければ、とても国民を味方につけることなどできないと思うのである。

 その意味で、いま議員たちに議論してもらいたいのは、この日本の根幹に関わる問題だ。中国の海洋進出と北朝鮮の核ミサイルの脅威、あるいは今後三十年間で七〇%といわれる大震災の可能性、そして未だ改善の兆しすら見えない少子化の深刻さ……等々、最近「持続可能性」という言葉が色々なところで語られるが、まさにこの国家としての「持続可能性」が問われているのがこの日本ではないか、と考えるからである。

 確かに、これまで日本は様々な僥倖にも恵まれ、無事・安泰にやってこれた。しかし、いまこの日本が直面するこの内外の問題を考える時、果たしてこれからもこれが「持続可能」なのか、といわざるを得ないのである。憲法といえば、マスコミを始めとして人々は口を揃えて平和、民主主義、人権をいう。しかし、この平和、民主主義、人権が成り立つ「基盤・条件」といったものを、どれだけの人々が考えてきただろうか。

 例えば、日本が他国の軍事支配下に置かれれば、この平和、民主主義、人権は即座に失われる。それでも平和、民主主義、人権なのか。あるいは、そうした事態を招来せしめないために、われわれがいまなすべきは何なのか。

 これに対し、にもかかわらずただ平和、民主主義、人権を守れ、と叫ぶのみだったのがこの人々であった。むしろ問題は国家権力がこれらを踏みにじる危険性であり、その危険性を指摘し、叫ぶことの方が大切だ、と人々は単純に考えてきたのだ。

 しかし、いまわれわれが直面している問題はそんな単純な問題ではない。平和・民主主義・人権の存立基盤そのものが揺らいでいるのである。かかる「いまここにある危機」を真剣に見つめ、国民挙げて対応を考えなければ、まさにこれらそのものの「持続可能性」が失われる、という問題なのだ。

 議員たちには、まずこの問題を真剣に議論してもらいたい。中国の海洋進出に対してはどう対抗すべきなのか、北朝鮮がもし核の脅迫に出てきた時、日本にはどんな対抗策があり得るのか、あるいはもし3・11を超えるような大震災が起こった時、果たして国家は国民の生命を救い国家の存立を守るため、必要な行動がとれるのか、そして少子化による国家衰退をどうすれば回避できるのか、等々だ。これらを真剣に考え議論すれば、自ずと憲法改正は身近な問題となり、国民の理解は深まろう。

 民進党代表選ではこうした問題は全く議論のテーマにもならず、新代表には国家観や安保観のかけらも見られない蓮舫氏が選出された。二重国籍問題はその象徴ともいえようが、であればこそ、心ある議員たちには、今こそ本格的な議論を呼びかけたい。(日本政策研究センター代表 伊藤哲夫)

〈『明日への選択』平成28年10月号〉